バイオ領域に投資しないといけない流れを作り出す
創業から約半年。すでにクライオに興味を持った製薬会社から、いくつか話が持ち込まれている、という。
「僕たちは製薬・創薬業界をディスラプトしたいわけではありません。これから製薬会社が新しい薬をつくって、大きく成長していくために一緒に研究して、創薬のタネを見つけていく。そのために、我々が持っている強みを生かせば、新たな役割を果たせる。その原動力のひとつにキュライオがなれればと思っています」(中井)
「クライオ電⼦顕微鏡の活用において、日本はまだまだ遅れていて。加速電圧が300キロボルトのものがクライオ電⼦顕微鏡の中でも最も加速電圧が強いのですが、日本はまだ2台ほどしかない。一方、中国は50台、アメリカは30〜40台、ドイツやイギリスも30台ほどある。数では圧倒的に負けていました。ただ、東大に300キロボルトのクライオ電⼦顕微鏡が導入され、我々が使うことで1年間で20以上の新規構造を決定した。他の国を質で抜いていく状況になりつつあり、もっとクライオ電⼦顕微鏡を増やす動きになっています。
とはいえ、誰もがクライオ電⼦顕微鏡を使えるわけではなく、下手に凍らせると分子が変性・凝集してしまうんです。そこも私の研究室の学生30人が色々やってみて教え合う中でノウハウが溜まりつつあるので、そのノウハウも解放していければと思っています」(濡木)
経営面を担う中井と、技術面を担う濡木。バックグランドが異なる両者のタッグは、バイオベンチャーにとって理想的な経営体制とも言える。
「日本の研究技術は世界と比べても低くないのに、事業性、ビジネス性を持たせることができず、うまくいっていない。まだまだ日本には優秀な人がたくさんいるので、経営側の人材と研究側の人材が一緒に手を組めば、うまくいくと思いますし、今後人材の異動がたくさん起きるのではないか、と思います。
個人的には今後ライバルとなるバイオベンチャーが増えてくれた方がいい。いまベンチャーに対する資金調達環境には追い風が吹いていて、10年前より全然やりやすい環境になっていますが、バイオベンチャーに投資できる投資家はまだまだ多くない。僕らが事業をやっていく中で同じバイオベンチャーが増えていき、VC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は、バイオに投資しないともったいない。そんな流れをつくっていけたらいいいな、と思っています」(中井)