テクノロジー

2020.03.18 08:00

「ノーベル賞」技術を活用 若手とシニアのタッグが日本の製薬業界を救う

キュライオの代表取締役CEOの中井基樹


「クライオ電⼦顕微鏡」は製薬会社を救う起爆剤になれる


キュライオの事業の根幹とも言えるクライオ電⼦顕微鏡は、スイスのジャック・デュボシェ氏、英国のリチャード・ヘンダーソン氏、米国のヨアヒム・フランク氏の3名が開発した技術。特徴は溶液中の生体分子の構造を高い解像度で観察できる点にある。
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これまで生体分子の構造解析の分析手法に関しては、X線結晶構造解析(XRD)と核磁気共鳴(NMR)の2つしかなかった。

X線結晶構造解析においては技術の成熟度が高いため、結晶さえ取れてしまえば比較的簡単に構造解析ができるが、試料を結晶化させなければならない点、均質な試料が必要な点が課題として挙がっていた。


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また、核磁気共鳴に関しては分解能が低い、直接の3次元構造が得られない、巨大な分子・複合体が解析できないといった課題がある中、“第3の手法”としてクライオ電⼦顕微鏡が登場した。もともと、電子顕微鏡を使った構造解析は可能と言われていたが、サンプルが損傷しない程度に弱く、解析可能な程度の強さの電子線を用いる必要があり、この制限下に十分なコントラストの投影像を得るためには、数千~数万枚、場合によっては数十万枚の投影像を取得した上で、これらを平均化する必要があったことから敬遠されてきたのだ。

ただ時代の流れとともに、電子を検出するカメラ、そして2次元投影像を復元するアルゴリズムが進化したことで、クライオ電⼦顕微鏡による構造解析が容易になった。

「構造解析はX線を用いた手法が一般的でしたが、結晶化が必要なX線による解析では、ヒトのタンパク質の約1/3程度しか解析できなかった。ただ、クライオ電子顕微鏡を用いることによって、X線構造解析では解析が困難だったタンパク質の多くにおいて構造解析が可能になります」(濡木)

クライオ電⼦顕微鏡による構造解析が主流になることで、日本の製薬・創薬業界において研究開発の効率が飛躍的に改善することが期待されている、という。

「創薬研究(医薬品の研究)は構造が分からないタンパク質に対して何百万回の試行錯誤(何百万個の化合物評価)を行っており、タンパク質にヒットするものが現れるまで続けるといった手法が取られていることから、長い時間と多大なコストがかかっている状況でした。また、従来の方法による創薬のアイデアはほとんど出尽くしてしまった。アイデアがなくなってきたところに、厚生労働省が薬価を下げてきて、製薬会社も苦しくなっている。


東京⼤学理学部教授の濡⽊理

そうした中、クライオ電⼦顕微鏡はうまく凍結させられるかの問題もありますが、結晶化せず大きさや複雑さに制限がないので、何でも創薬のターゲットになる。今まで解けなかった構造に基づいて新しい薬をつくれば、日本の製薬・創薬業界に大きなインパクトを残せるのではないか、と思ったんです。

そこで中井さんと会い、若いのにしっかりしていて、実行力がある。なおかつ悩みを聞いてもらえるくらいの信頼関係ができあがっていたので、一緒にやることにしました」(濡木)
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文=新國翔大 写真=小田駿一

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