「ノーベル賞」技術を活用 若手とシニアのタッグが日本の製薬業界を救う

キュライオの代表取締役CEOの中井基樹

2017年にノーベル化学賞を受賞した「クライオ電子顕微鏡」。生体分子の構造を解析する“第3の手法”として注目を集めている技術を活用し、製薬・創薬業界に新たな波を起こそうとしているスタートアップがいる。

そのスタートアップの名はキュライオ。同社はクライオ電⼦顕微鏡を使い、タンパク質の単粒子解析や低分子のmicroEDによる構造解析を手がけている。先日、社外取締役に東京⼤学理学部教授の濡⽊理が就任し、顧問に東京⼤学医学部教授のラドスティン・ダネフが就任したことを発表した。

濡⽊氏はX線結晶構造解析およびクライオ電⼦顕微鏡を⽤いてタンパク質・核酸の⽴体構造研究を⾏う構造⽣物学者であり、2016年にゲノム編集創薬ベンチャー「EdiGENE」を設⽴した人物。一方のラドスティン氏はボルタ位相板技術の発明者であり、クライオ電⼦顕微鏡の分野においては世界有数の専⾨家と言われている。

そんなクライオ電⼦顕微鏡の分野の第一線にいる2人は、なぜこのスタートアップを始めることにしたのだろうか──。

既存のIT領域はアップサイドに限界が見えていた


キュライオの代表取締役CEOを務める中井基樹は英国の大学で4年間ファイナンスやマネジメントを学んだ後、帰国してJPモルガン証券に就職。投資銀行本部の金融法人グループにてIPO、資金調達、M&A業務を経験。

その後は家具・インテリアのオンラインカタログ送客サイトを創業したほか、DeNAにて経営実務を幅広くを担当したり、ジラフのCFO(最高財務責任者)を務めたりした経験を持つ人物だ。バイオテクノロジーに関するバックグラウンドはない。そんな人物がなぜ、バイオベンチャーを立ち上げたのか?

「過去に起業したこともありましたし、直近ではスタートアップの役員として経営にも携わっていました。そうした経験から、自分でゼロから事業を立ち上げることだけは決めていたんです。ただ“何をやるか”は決めていなくて……。そうした中、いろんな人に会ったり、情報をリサーチしたりする中で、偶然、あるバイオベンチャーの社長に出会って色々と話を聞いたんです。

今までバイオテクノロジーの領域はバックグラウンドも異なっているため考えてなかったのですが、話を聞いてみたら市場規模も大きくて、事業を行うことの意義も大きくて面白そうだな、と。創薬市場だけ切り取っても国内に9兆円の市場規模がありますからね。それでいて世界的に見ても良いポジションをとっていて、市場規模もわずかではありますが、いまだに伸び続けている。そういった市場は日本にあまり残っておらず、貴重だなと思いました。

既存のIT領域はここ数年で事業の再現性が高くなっていて、プレイヤーの数も増えてきている。しかし、同時に会社の規模感もアップサイドの限界も見え始めています。それを踏まえると、バイオテクノロジーの領域はまだまだ大きな可能性があるんじゃないか、と。そんなことを考えていたときに濡⽊先生と出会い、クライオ電⼦顕微鏡の話を聞き、これは勝負できるテーマだと思い、クライオ電⼦顕微鏡を使った構造解析の事業を始めることにしたんです」(中井)
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文=新國翔大 写真=小田駿一

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