チェロも腕時計も、使ってこそ価値がある

クラシックをベースに、ロック、J-POPなど幅広いジャンルで活躍しているチェリスト、溝口肇さん。彼の作品で我々に一番馴染みがあるところでは、「世界の車窓から」のテーマ曲だろう。柔らかで、癒やされるような音色は、誰もが口ずさめるほど象徴的な作品だ。
 
その溝口さんが愛用する時計は、シチズンの「エコ・ドライブ ワン」。ムーブメントの厚さがわずか1㎜ (設計値)、時計自体のケースの厚みも2.98㎜(設計値)しかないという、常識を覆した極薄モデルだ。しかも、エコ・ドライブを搭載しているので、インサイドには発電した電気をためておく二次電池なども配置されている。その上で、この薄さなのである。

「この時計で最も気に入っているのは、文字盤が見やすいことです。また、やはり特徴的なこの薄さですね。私はステージに立つときには時計を外します。楽器に時計が当たってしまうからです。ですが先日うっかりして時計をつけたまま演奏することになったのですが、驚くことにまったく問題なく演奏できたのです。日常生活に限らず、演奏という極めて繊細なシーンですら身体と一体化する。この薄さは驚異的です」

まず溝口さんが指摘する実用性の高さ。それは溝口さんのモノ選びの基準にもなっている。

「私は仕事上のパートナーとしてチェロをなによりも大切にしています。数千万から億を超える金額のものもありますが、それでもチェロは道具です。そして、道具は使ってこそ価値があるものだと私は考えています。ですから実用性が低いものには、愛着を持つことはできません。腕時計も同様に、私は道具として見ています。時間を知るときにも携帯電話ではなく腕時計です。もちろん腕時計ではデザインも重要です。どのようにデザインされた道具を身につけるかに、その人の感性があらわれます。ですから、どのような時計を選ぶかは、私にとって非常に重要なことなのです」
 
さらにもう一点重要視することが「モノ作りのために費やした時間」なのだと溝口さんは続けて語る。

「例えばスピーカーにおいて重要なのは発する音。時計であれば正確に時を刻み、知らせること。今日の私が時計の文字盤に目をやり、針を見たときに感じる気品というものがあります。これは時間をかけて追求してきたからこそ発するものであり、その深みに感動を覚えるのです。理屈ではない感覚的なことではあるのですが」

腕時計を見た瞬間に何を感じるか?音楽家の感性は、鋭くモノの善し悪しを判断する。
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photographs by Kazuya Aoki | text by Ryoji Fukutome | edit by Tsuzumi Aoyama

この記事は 「Forbes JAPAN 3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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