電子国家にみる「動揺と順応」 新型コロナにエストニアはどう立ち向かうのか

Photograph by Toolbox Estonia


一方、ビジネスシーンの対応は冷静かつ迅速だった。ITスタートアップでは緊急事態宣言の発令に前後してリモートワークを開始。ユニコーン企業のTransferWiseや、CRMツールを開発するPipedriveなどは全社員を対象とするリモートワークに切り替えた。

そもそも、平均賃金が月1407ユーロ(約17万円 / Statistics Estonia発表)と高くない同国では共働き世帯が多く、そのため子どもを職場に連れてくる親や、在宅で子守をしながら働く親が少なくない。そのため、リモートワークや在宅勤務への移行は比較的スムーズに行われている印象だ。

現地のフィンテック スタートアップに勤務する日本人女性は、「普段からリモートワークに対して寛容な文化があるため業務への影響は小さいが、チームメンバーと対面でコミュニケーションをとれないのは少し寂しい」とコメント。なお、社内システムにはVPNを通じて接続しているという。

IT以外の業界でも、リモートワークに移行する流れが続いている。現地大手銀行に勤務する皆川ヴィクトリアさんは、「13日に全社ミーティングが行われ、窓口などを除く大半の部署のリモートワークが決定した。移行にあたってはディスプレイなど備品の貸し出しも行われ、全体的に混乱は少ない」と語る。

そもそもe-ID(エストニア版マイナンバー)と連携した電子署名が普及しているエストニアでは、「書類への捺印行為」は全て電子上で完結する。そのため、契約行為や、稟議書への捺印、承認行為などのために出社する必要はなく、全て自宅から完結する。

アドビシステムズが3月4日に発表したリモートワークに関する調査結果によると、日本では、リモートワークの際に書類への押印やサイン、紙書類の確認など出社しなければ対応できない業務の発生により、やむなく出社した経験のある人は全体の60%以上にのぼった。筆者の知る限り、そのようなことはエストニアではほぼ起こり得ない。

いま世界の各企業はリモートワークに対応すべく対応を進めているが、今回のような緊急時でなくとも、効率性・生産性の向上や多様化するライフスタイルに適応するためのインフラ整備はより一層重要になっていくだろう。


Hack the Crisisのイベント告知画像(画像引用元:Hakc the Crisis)

また、エストニア政府機関のAccelerate Estoniaとハッカソン団体のGarage48は、オンラインハッカソンの開催を決定。「Hack the Crisis(この危機をハックせよ)」をテーマに、参加者からコロナウイルスによって生じた課題を解決するアイディアを募る。優秀賞として、最大5チームに5000ユーロの活動支援金が支払われる形だ。

さらに、フードデリバリーが定着している同国では、サービス事業者のBolt FoodやWoltが、新たに「デリバリー時に配達物を置く場所」を入力する機能を設けた。玄関やドアの前などに配達物を置けるようにすることで、利用者と配達員との接触を最小限にする狙いがある。
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文=齋藤アレックス剛太

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