自分たちの仕事を見直すいい機会だ
シリコンバレーで成功してきた起業家には移民が多いという事実も偶然ではないだろう。迫害されたり貧しい環境で育ったりしたなかで培われたハングリー精神は、起業家として成功するうえでの重要な資質の1つだ。
そういう意味では、30年の経済停滞を経ても、なお比較的安定した生活ができる日本は、起業家を輩出するには向かない環境なのかもしれない。特に大企業など安定した場所にいながら、ハングリー精神を培うというのはなかなかできないことなのだ。
だが、新型コロナウイルスで困難な状況にあるいまこそ、一度立ち止まって、自らが置かれている環境を冷静に見つめ直すには、いい機会ではないだろうか。
自分の業務のカレンダーを見てみよう。必要のないミーティングで時間を食いつぶしてはいないだろうか? もし、あなたが現在リモートワークを実践しているのであれば、これまでやってきたミーティングが本当に必要だったのかどうかを判断する絶好の機会だ。
また、これまで惰性でやってきたルーチンワークはどうだろう? より効率的にやる方法があるのではないだろうか? あなたの会社がこれまで同じ商品やサービスを同じやり方で売ってきたのであれば、それをこれからも同じやり方で続けることができるのかどうか、冷静に考えてみよう。昨今の困難な状況に合わせて新しい商品が提案できないか、新しい売り方ができないのか?
いま新型コロナウイルスが猛威を振るっているワシントン州を拠点にするスタートアップ「Slightly Robot」という会社は、これまで無意識に髪の毛を抜いてしまう抜毛症の人たち向けてリストバンドをつくっていた。しかし、今回の騒動を受けて、急遽ソフトウェアを改良し、顔を触ろうとすると振動して警告してくれる商品につくり変えて発売した。
ワシントン州で最初の感染者が報告されたのが1月21日だから、ほんの1カ月半ほどの短期間で新商品を開発し、発売したことになる。企画書から始まり、承認を得ながら試作を繰り返し、QAをしてという通常の大企業が辿るようなプロセスでやっていれば、おそらく1年以上はかかっただろう。
こうしたスタートアップならではの機動力やクリエイティビティを備えることは、あらゆる企業、あらゆるビジネスで、今後ますます重要になってくる。
オープンイノベーションというのは、スタートアップと協業して実証実験をやることが目的なのではない。スタートアップとの協業を通して、そうした新しいビジネスの進め方を学び、自らがスタートアップのような機動力を持ってビジネスを変えていく力を付け、実践していくことが、真の意味でのオープンイノベーションと言えるのではないか。そこで初めて、革新的なビジネスも起こすことができるのだ。
連載:スタートアップのすゝめ
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