介助者の監督が、障害者の自立生活描く『インディペンデントリビング』で映し出したもの

障害者の自立生活センターを舞台にした映画『インディペンデントリビング』(C)ぶんぶんフィルムズ 


インディペンデントリビングのシーン
介助者にタバコの火をつけてもらう「フチケン」(C)ぶんぶんフィルムズ

引きこもり生活をしていたフチケンの家にしつこく尋ねていたのが、NPO法人「自立生活夢宙センター」代表平下耕三だ。自らも、骨格形成不全症という難病の当事者である平下は、自立に至るまでの苦しみや喜びに寄り添い、当事者のひとりひとりが一歩を踏み出せるように背中をそっと押す。

フチケン以外にも、たいき、トリス、ララ、ヒロくん...魅力的なキャラクターの障害当事者が出演する。センターに入る前の同じ毎日を繰り返す生活環境ゆえに「したい」という意思を持つことさえ難しくなっていた彼らが「料理を作りたい」「恋人をつくりたい」「留学したい」と思うようになり、実際に行動に移していく。

そして平下のような自立生活センターの運営者や障害当事者の仲間、介助者が実現に向けて伴走するほか、家族や友人がその姿勢を遠くから見守る。

なかでも、フチケンは障害当事者として自立生活を広めたいという思いから新しく自立生活センター「ムーブメント」を立ち上げ、「したい」という意思を持ち始める若者世代をエンパワーメントしていくことになる。

インディペンデントリビング
NPO法人「自立生活夢宙センター」平下代表とフチケン(手前の2人)(C)ぶんぶんフィルムズ

自立センターの始まりは、アメリカ。黒人の公民権運動から派生


自立生活センターはもともとはアメリカの自立生活運動にルーツをもつ。1960年代の黒人の公民権運動から派生して、障害者やホームレス、性的マイノリティといった世の中に生きづらさを抱く人々の支援に声をあげた運動だ。30年間で法整備を進めたほか、1999年には世界会議がワシントンDCで開催された。一方、日本では1989年にはじめて自立生活センターのモデルが導入され、これまでに全国122カ所に設立された。

2020年2月、ALS患者である舩後靖彦参議院議員の支援のもとで行われた参議院会館での試写会で、田中監督は「この映画で描けなかったのは、日本における自立生活センターの都市と地方の格差です。地方は環境的な要因で地域に出ていけないという声も聞いています。センターのない地域に支援が行き届くことを願うとともに、まずは自立生活について知ってもらうきっかけになればと思います」と話した。
次ページ > 「我々の入り口に立ってほしい」という言葉の意味

文=猪俣由香

ForbesBrandVoice

人気記事