川村雄介の飛耳長目

寒さが増す北京の夜空に、月が炯々と輝いていた。数年前には想像もできなかった澄んだ大気である。中国は日本の35年前を辿っている感がある。1970年頃の東京と2000年代初頭の北京の空気は同じように汚染され、河川に魚影を見なかった。だが、80年代半ばには東京の自然環境はぐっと改善された。いまの北京にも同じことを感じる。

「35年前経路」は環境だけではない。米国との経済摩擦がまさにそれだ。

当時の日本は、米国から国内経済システムの構造改革を強い調子で求められていた。ロナルド・レーガン大統領と中曽根康弘総理の仲が「ロンヤス」関係などと喧伝される一方で、米国通商代表部との交渉では、日本への「制裁」という言葉が連発されていた。他人様の国内構造を変えろ、でなければ「おしおき」だ、という上から目線だった。モノの交易では、半導体を軸とするハイテク摩擦が火花を散らし、日本人技術者が何人も逮捕された。

中国は、かねて日本経済の高度成長からバブル崩壊、そして失われた20年への経路を熱心に研究していた。驚異の成長の成功と失敗を徹底的に分析し、自国の将来への予行演習にしようという意気込みだった。真摯で謙虚な態度であった。

雰囲気が変わったのは2010年あたり、GDPで日本を抜き米国に次ぐ経済大国になった頃からだ。中国は元々、人口大国、軍事大国である。それが経済大国になったのだから、いまや超大国だ、日本などに学ぶところはない、と言わんばかりに見えた。

16年の暮れだった。広東省の幹部と米国大統領選挙の結果について意見交換をすると「トランプ? 怖くなんかないね。彼も中国を軽視できないはずだ」と言う。中米はウィンウィンの新大国関係を構築できる、と涼しい顔だった。

あれからわずかに3年。中国はトランプの、否、米国の本気度を痛感せざるをえなくなっている。強硬な制裁とdeal by dealで戦術を使い分けてくるトランプのやり口への疲労感が漂う。経済にもじわじわと悪影響が出てきている。

文=川村雄介

VOL.35

上海で見た「日本人コメディ」

VOL.37

理系も文系も必要 リベラルアーツの重要性

PICK UP

あなたにおすすめ

合わせて読みたい