ナラヤンの現在に至るまでのキャリアの変遷をたどる。
アドビを改革したシャンタヌ・ナラヤン
シャンタヌ・ナラヤンは、インドのハイデラバード育ち。プラスチック工場を営む父と、大学でアメリカ文学の教授をする母との間に生まれた。教育熱心な家庭だったため、幼少期から学業に打ち込んでいた。
高校時代はジャーナリスト志望だったが、家族や周囲からの期待でエンジニアの道へ。インドのオスマニア大学へ進学し、電子工学を学んだ後に、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校にてMBAを、オハイオ州ボーリンググリーン州立大学にてコンピューターサイエンスの修士号を取得した。
後にナラヤンは、「インドとアメリカの両方で学生生活を送った経験はエキサイティングで、自身のパーソナリティの形成や考え方に大きく影響した」と語っている。
ナラヤンは、ビジネスにおいても幅広い分野での経験を積んできた。大学卒業後は小規模のスタートアップに就職、その後は「アップルコンピュータ」や「シリコングラフィックス」で製品開発を担当していた。また、写真共有サービスを提供する「ピクトラ」を共同設立する経験などを経て、経営のスキルを高めていった。
アドビとの出会いは、ピクトラ在籍中に業務提携を締結したことだった。アドビのビジョンに共感したナラヤンは、1998年にアドビへ入社。以降、主要製品の研究開発、社長兼COO、07年から会長兼社長兼CEOを務めている。
大学卒業以来、様々な企業を渡り歩いてきたが、アドビには20年以上在籍している。その理由は、かつてジャーナリスト志望だったこともあり、出版業界・ジャーナリストに不可欠なツールを作っているアドビでの仕事に満足感を得ているからだという。
シャンタヌ・ナラヤンが考えるAdobeでの改革とこれから
ナラヤンを知る上で欠かせないのが、アドビのビジネスモデルの大改革だ。
12年には「Photoshop」や「Illustrator」など画像編集ツールなどを統合した「Adobe Creative Cloud(以下CC)」を、15年3月には、PDF編集管理ソフト「Adobe Acrobat DC」とクラウドサービス「Adobe Document Cloud(以下DC)」をリリース。
店頭でのライセンス版の販売という「売り切りモデル」から、定額でのクラウドサービス「サブスクリプションモデル」へと転換することで、収益構造の大改革を行った。この事業変革を立案したのがナラヤンである。
大企業の中核ビジネス変革の成功事例として、アドビの事業変革は世界中から注目を集めている。
アドビのイノベーションはこれだけに留まらず、19年7月には世界中で愛用されてきた「Flash」を20年に終了することをアナウンス。Flashは動画の世界で大きく貢献してきたが、Flashに依存しなくてもコンテンツの出力・配信が可能になってきている世の中の流れにあわせ、自社製品もアップデートしていく考えだ。
ナラヤンは「アドビは、テクノロジーの変化にあわせてビジネスモデルを進化させていく。現状維持という考えはなく、常に新しい技術や企業提携によって可能性を広げていく」という考えを示している。