キャッシュレスの「お得争い」から消費行動の革新へ。経済的視点から#読む5G

サムネイルデザイン=高田尚弥

「5G」をめぐる連載の第1回では、通信産業をP(Politics)・E(Economy)・S(Society)・T(Technology)の4つの視点から、来るべき時代の社会像について考察しました。そして、第2回の前回は、Pの政策的視点(Politics)から深掘りしましたが、今回は、Eの経済的視点(Economy)から見てみましょう。

経済的視点から5G時代の通信業界を見たときに、大手の通信事業者がいずれも「キャッシュレス決済サービス」で存在感を増していることは、特筆すべきトレンドといえるでしょう。

ソフトバンクとヤフーが提供する「PayPay」は、大型のキャッシュバックで注目を集めました。全国チェーンから地場の小規模店舗まで、きめ細かな加盟店網を整備して、「どこでも使える」サービスとして急激に利用者を伸ばしています。

ドコモの「d払い」も、ますます利便性が高まっている「dポイント」のキャンペーンで積極攻勢をかけ、利用が広がっています。通信事業に参入した楽天も「楽天スーパーポイント」で「楽天ペイ」を訴求しており、この2社は、共通ポイントを武器とした戦略をとっています。

そしてKDDIも「au PAY」のキャンペーンを強化するとともに、共通ポイントの「Ponta」と合流し、競合他社に対して巻き返しを図っています。これら4大通信事業者の提供するキャッシュレス決済すべてを、スマートフォンにインストールしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

資本力がなければ生き残れなくなる


通信事業者は、通信料金による収入が頭打ちとなるなかで、通信を提供するだけの存在ではなく、いまや消費のすべてに寄り添う存在になろうとしています。自社が関与する影響範囲のなかでビジネスチャンスを産み出したり、それを刈り取ったりするという、いわば「経済圏型のビジネスモデル」に転換しようとしています。

キャッシュレス決済は、この経済圏競争の核となる「スーパーアプリ」として、いかに消費者との接点を獲得するかという激しい競争のなかに、いまあります。

消費者が買い物をするときに、PayPayで支払うのか、あるいはd払いや楽天ペイ、au PAYなのか、それとも他の手段で支払うのかは、経済圏の拡大をめざす事業者にとっては死活問題で、消費者に選ばれるには強烈な「お得感」を提供し続けなければなりません。

同時に加盟店も増やさなければなりませんが、そのためにはスタッフが足で稼ぐしかありません。つまり会員獲得も加盟店開拓も、とてもコストがかかることになります。

過去には、UI(ユーザインターフェース)の洗練が競争を勝ち抜く要件とされていた時代もあったキャッシュレス決済ですが、現在では相当な資本力がなければ生き残れなくなっています。

キャッシュレス決済スタートアップの雄であったOrigami Payがメルカリに買収されたのは象徴的な出来事で、その背景にはこのような激化する経済圏競争があるわけです。

LINEとZホールディングス(ヤフー親会社)の合併も同じ理由で、大資本だけが生き残る環境において、今後も合従連衡がさらに進むことになるでしょう。

日々の生活のなかでも、通信事業者の存在感はますます大きくなっていますが、5G時代でもこのトレンドは加速する一方と思われます。
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文=亀井卓也

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