新たなプレイヤーが台頭する可能性も
消費行動における顧客接点の獲得のために、キャッシュバックやポイント還元で攻勢をかける各社ですが、単にお得というだけでなく、5Gを活用してショッピング体験を革新するというチャレンジもなされています。
KDDIはフェイスブックと組み、5G時代の新しいショッピングエンタテインメント体験を提供する「フューチャーポップアップストア」を今春に開設します。ここでは、AI店員による接客や、ARグラスのレンズ越しにデジタルコンテンツを重ね合わせて付加価値を提供するショッピング体験を実現するということです。
また、KDDIは、すでにグループで運営するECモール「Wowma!」で、ソファなどの大型家具を、ARで自分の部屋に配置したイメージを確認できるサービスを提供していますが、このようにARで「お試し」させるサービスは、ここに挙げた家具や化粧品のような商品では普及し始めており、今後も衣料品やアクセサリといった試着を要する商品のEC販売に広がると予想されます。
新しく開設されるKDDIのフューチャーポップアップストアも、このようなARショッピングの利用を加速させることでしょう。
さらにこの取り組みで興味深いのは、ECのプラットフォームを有するKDDIが、新たに実店舗を構えるという点です。実店舗主体の事業者がローコストチャネルとしてECに展開する例は数多くありますが、その逆は珍しいことです。
これは、B2CのEC化率(商取引市場規模に対する電子商取引市場規模の割合)は、2018年の時点で6.22%と、買い物はまだまだ実店舗で行われており、消費行動を押さえるには実店舗が重要だということです。
KDDIの店舗はポップアップストアであり、期間限定での営業と思われますが、例えば、アメリカのアマゾンは食料品を扱う実店舗「Amazon Go」の展開を拡大しているなど、ECプラットフォーマーの実店舗進出は、EC上の体験を紹介するプロモーションの意味だけにはとどまりません。
キャッシュレス決済の強化も、実店舗でのショッピング体験の革新も、消費者の消費行動を徹底的に押さえるという経済圏型ビジネスモデルの一環であり、それには実店舗を抱えなければならないということです。
そして、実店舗を含めた経済圏というのは、デジタル空間での経済圏と異なり、消費者の生活圏のサイズで設計される必要があります。
5G時代の経済圏競争は、消費者の生活圏のサイズでの戦いになっていくと予想されます。グローバルなプラットフォーマーが、すべての地域で同じように独占的ポジションを占めるのではなく、地域ごとにその土地ならではの特色が生まれ、新たなプレイヤーが台頭する可能性も期待できるでしょう。
亀井卓也
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