突然ですが、皆さんは朝陽が好きですか? それとも夕陽のほうが好きですか?
僕がこれまで見た中でいちばん印象深かったのは、7年ほど前にポルトガル・オビドス村のオビドス城で見た朝陽だ。城に泊まったというと驚かれるかもしれないが、ポルトガルには「ポザーダ」、スペインには「パラドール」という、城や宮殿、修道院などの歴史的建造物を修復・維持・活用を目的とする、国営のホテルチェーンがある。なんと世界遺産であるスペインのアルハンブラ宮殿内にも、「パラドール デ グラナダ」という修道院を改装したホテルがあるのだ。
ヨーロッパでの仕事のついでにポルトガルへと足を延ばした僕は、その歴史ある古城に一泊した。当然だが城内には鎧や絵画、骨董品などが飾られていて、それを見るだけでも楽しい。夜は土地の郷土料理とワインに舌鼓を打ち、部屋で読書を楽しみ、広いベッドで眠り……そうして翌日に迎えた朝陽は、実に荘厳だった。ああ、中世の人もこの城から同じ光景を見たのか、と思うと、本当に感慨深かった。たぶん美しさだけではなく、時空を超えたような感覚にとらわれ、それで強く記憶に残っているのだろう。
逆に「夕陽」では、忘れられない人がいる。油井昌由樹さん。大学卒業後に世界を旅し、帰国してからアウトドアグッズ輸入会社を設立。その後、32歳で黒澤明監督の『影武者』に徳川家康役で出演したのをきっかけに、俳優・ナレーションの仕事にも携わるようになったというユニークな経歴の持ち主だ。長塚京三さんが出演されたサントリーオールドのCMのナレーション「恋は、遠い日の花火ではない。」を担当した、と言ったらその素敵な声を思い出す方も多いかもしれない。
その油井さん、四半世紀にわたって、「夕陽評論家」を自称している。僕が構成作家になったばかりのころ、確か『11PM』の夕陽特集を手掛けることになり、出演していただいた。当の番組の構成はもう覚えていないが、世界のいろんな夕陽の写真に対して適当なことを発言しているだけで、そこが非常に面白かった。
聞けば『影武者』公開時の取材で「肩書きはどうされますか?」と記者に訊かれ、「映画一本で俳優を名乗るのもな……」と、洒落で名乗り始めたそうだ。しかし、世界でたったひとりの「夕陽評論家」であるからして、 米 紙『THE WALL STREET JOURNAL』にユーモアたっぷりに写真入りで紹介されたり、「○○島に沈む夕陽を見に行ってきてくれませんか」という仕事が舞い込んだりするようになったとか。そういう「洒落が人生を愉快にする」ということが本当にあるんですよね。
朝陽には希望を、夕陽には感謝を
2018年11月18日。僕は自らの故郷でもある熊本県天草市を社員旅行先とし、コミュニティFM「みつばちラジオ」を舞台に社員総出で番組をつくった。番組タイトルは「Amakusa Happy Hunting!」。社員が3人ひと組となって街中に散らばり、自分たちにとっての幸せと天草の人たちの幸せを探し回って生放送で報告する、という内容だ。
その番組内の「企画会議に乗ります・参加します」というコーナーに、高校生や一般の方にまじって、市議会議員の浜崎昭巨さんが訪ねてこられ、「天草の夕陽は人を集められる力があると思うのですが、具体的にどうしたらいいでしょうか?」と相談された。夕陽云々は決して地元の贔屓目ではない。NPO法人「日本列島夕陽と朝日の郷づくり協会」が選定した「日本の夕陽百選」にも天草は選ばれている。