ノーベル平和賞授賞式でのスピーチやソーシャルビジネスの7原則など、世界中で共感を得ている彼の言葉を厳選して5つ紹介する。
グラミン銀行創設者ムハマド・ユヌス
ムハマド・ユヌスは1983年、祖国バングラデシュで、貧困層に無担保で小額融資する「グラミン銀行」を設立。貧困層の起業・自立を促す仕組みである「マイクロファイナンス」が大きな注目を集めた。
2006年には、こうした取り組みが評価され、ノーベル平和賞を受賞。授賞式のスピーチでは、利益の最大化ではなく、社会課題の解決を目指すビジネスモデル「ソーシャルビジネス」を提唱。「インテル」や「アディダス」など世界的企業との合弁事業設立など、活躍を多岐に広げている。
1. 理論を捨て去り、一介の人間に戻って考えよう
1940年にバングラデシュで生まれたユヌスは、ダッカ大学を卒業後、69年、アメリカのヴァンダービルト大学で経済学の博士号を取得。帰国後、74年の大飢饉で祖国バングラデシュの貧困層の窮状を目にし、自身の無力さを実感する。
そこで経済学の理論や手法よりも、まずひとりの人間として、貧しい人たちのために力になれることは何かを考えた。この時考えついたアイデアが、貧しい人々に少額ずつお金を貸すということ。この経験から、グラミン銀行は形になったのだ。
2. 人は生まれついての起業家だ
グラミン銀行を創設した時、周囲からは「貧しい人々は信頼できない」「彼らには生活を変えようとする意志がない」と反対されたという。しかし現実には返済があっただけでなく、その資金を元に人々は竹細工や陶器作りなど、様々な事業を始めた。
寄付ではなく、貧困層が持続的に自立する支援をすることで、社会問題の根本的解決を目指す。ユヌスのその思想の根底には、生まれた環境に左右されない、人間の可能性を信じる思いがある。
3. 我々は仕事を探す者ではない。仕事を創る者である
ユヌスはグラミン銀行を利用する子どもたちに、この言葉を復唱させるだという。01年にユヌスはグラミン銀行から資金を提供し、若手起業家の支援を行う「ノビーン・プログラム」を発表。
ベンガル語で“新しい起業家”を意味する「ノビーン・ウッドクター」が由来だ。毎月1000件ものビジネスプランが生まれ、17年時点で1万6000人近くの起業家が誕生している。
4. ビジネスには二種類ある。一つは利益を最大化するもの。もう一つは社会的目的のために営むもの。同じ人が、二つのビジネスを同時にできるはずだ
ユヌスが提唱しているソーシャルビジネスでは、利益の最大化ではなく社会課題の解決を最優先に目指す。投資家には投資額を上回る配当は還元されず、社員の福利厚生や自社への再投資に回される。ユヌスがソーシャルビジネスを営なむために必要だと掲げるのが、この7原則だ。
・ソーシャル・ビジネスの目的は、利益の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、技術、環境といった問題を解決すること。
・財務的、経済的な持続可能性を実現する。
・投資家は、投資額を回収する。しかし、それを上回る配当は還元されない。
・投資の元本の回収以降に生じた利益は、ソーシャル・ビジネスの普及とより良い実施のために使われる。
・環境へ配慮する。
・雇用者は良い労働条件で給料を得ることができる。
・楽しみながら実施する。
ソーシャルビジネスは「ファーストリテイリング」や「吉本興業」など、日本企業にも広がっている。
5. 武力ではテロに勝てない。お金を鉄砲ではなく、貧しい人々を救う戦略へ
06年ノーベル平和賞授賞式で述べた言葉。ユヌスは「人間を、利益最大化の観点だけでみるのは、人間を侮辱することだ」とも述べている。
貧困層の救済をはじめ、社会課題の根本的解決を目指し続けるユヌス。11年にはグラミン銀行総裁職を解任、19年には従業員の解雇をめぐる出廷命令に応じなかったとして逮捕状が出るなど、ユヌスを脅威と捉えるハシナ首相の政治的影響も受けている。ユヌスの思想とビジネスは今後どう世界へ広まりを見せるだろうか。
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