アジア諸国へのアクセスの利便性と平均年齢の若さという強みを生かし、「米軍基地の街」から「アジアのIT基地」への転換を目指す沖縄のいま。
沖縄県は起業率が7.61%と全国トップを誇る。もともと小売業が活発なためだが、近年、飛躍的に伸長しているのがIT関連産業である。現在3,000億円を超す規模に成長し、観光に次ぐ基幹産業に成長した。
事業所数と雇用者数も右肩上がりで伸びている。進出企業は2013年度で301社、2万4,869人がIT産業に従事する。「平均年齢が全国最年少の沖縄県は、若い人材の活用ができます。国内の水準では生活費は安価で、経費削減につながります。台湾やフィリピン、タイなどに支店を持つ企業が、地理的に近い沖縄をアジアの総合支社にしているケースも目立ちます。沖縄のGIX(インターネットの国際的相互接続拠点)を利用することで、直接、各国へ高速で接続できることも利点です」(県情報産業振興課)
また、法人税や事業税、固定資産税などの減免措置のほか、テナント料や人件費への各種助成金制度を実施していることも企業誘致を活性化させている。
コンテンツ制作会社のシフトワン(東京都千代田区)は昨年4月、那覇市に支店を置いた。県庁や市役所からも程近い、沖縄バス本社ビルの一室だ。その理由を、メディアビジネス部長の増子貴志が語る。「沖縄にオフィスを構えたのは、台湾や東南アジアに距離的に近いからです。今後、経済が伸長し、人口も増加していくアジア諸国を顧客として重視しています。また、那覇市から従業員の雇用助成金が出るので、人件費の面でも有利です」
同社はモーションコミックという漫画の動画を制作しているが、プロデュース以外の多くの工程を沖縄に移している。モーションコミックとは一部動画で、電子コミックの進化系ともいえる。原作漫画のコマごとにカラー画面が展開し、音響が入ったり、セリフを声優が読んだりする。現地採用のスタッフ19人が、これら素材の制作に当たっている。
「海外の漫画の読者層をさらに発掘するためには、漫画文化の違いを克服しなければなりません。特に日本の漫画のコマ割りは独特で、他国の人は慣れるのが難しい。モーションコミック化することでストーリー展開や、時間的感覚が視覚的にわかりやすくなります。音声の吹き替えも英語のほか、中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語などを作っています」(増子氏)
那覇市には同社のようなコンテンツ制作業のほか、ソフトウェア開発業やコールセンターなどのIT企業が集積している。沖縄は、米軍基地に依存した経済というイメージがもたれている。しかし、牧港米軍住宅地(約214ha)の返還により、再開発された、那覇新都心・おもろまちにはオフィスビルが立ち並ぶ。
県中部のうるま市の沿岸地域では、国内外のIT産業の中核拠点として「IT津梁パーク」構想が進行中だ。ソフトウェア開発、BPOセンター、データセンターなど産業機能の集積拠点として、やはり、日本とアジアを結ぶ懸け橋(津梁)を謳う。
企業誘致に地元企業の立地も喚起され、「米軍基地の街」から「アジアのIT基地」への転換を目指す。県全体で21年度には総生産額で5,800億円、総雇用数5万5,000人を見込んでいる。