──どうすればオビディエンスではなく、リスペクトの価値を重んじたリーダーになれるのでしょう?
リーダーは何かしら特権を持っていると思います。特権にはいろいろなものがあって、経済的や物質的な豊かさだったり、人脈だったりします。私のように生まれながらにして度胸があることも、1つの特権だと思っています。その特権を持つと、必ず責任が伴います。責任を持つ立場になればなるほど、誠実さ、清く正しくあること、そういった人間性に価値を置くべきでしょう。
先日、日本に滞在した際、日本企業のリーダーシップを学び、驚きました。東京の「日ノ樹」という会社では、石川照樹会長と内田博之社長、2人のリーダーが、私の到着を出迎えてくださり、会場を自ら掃除して、飲み物食べ物を運んでくださいました。
こんな謙虚なリーダーは、東ティモールで見たことがない。周りの人をはべらせるリーダーばかりを見てきたので、お2人の姿は、私も将来はこういう人でありたいという具体的なモデルだと思いました。
同じく「虎屋」を訪問したときも、創業家の18代目ご本人が自ら赤坂のお店を案内してくださいました。これだけ歴史の重みを感じさせる人が、周りに配慮をしてくださり、誰が話してもその話を尊重する。それを見て、とても感銘をうけました。
事業の説明も英語で話してくださいましたが、主語が「I」ではなく「We」だったことが印象的でした。私がやっているという感覚ではなく、私たちで会社をやっているという感覚がとても印象的でした。
──日本人にとっても参考になるお話ですね。そこで、東ティモールのこれからについて、ベラさんの考えをお聞かせください。
私は、人の発展も国の発展も、同列で語られる話だと思っています。常にその人やその国の固有のニーズに合わせて、何を積み上げていくのかということであるはずです。国民1人1人が私らしくいられるか、私としてどのようにして成長していけるかという環境を考えることが、国の発展にも繋がると思っています。
東ティモールはシンガポールのような国づくりを目指せ、と言う人もいますが、なぜそのようにならないといけないのか私にはわかりません。東ティモールに4階や5階の家や高いビルが必要でしょうか。本当に人の生活の環境のために、どのような発展が必要かを考えるべきです。
蛇は飛べないですよね。蛇は蛇として成長することはできるが、蛇を鳥のように飛ばすような成長はできない。その人が持っているもの、その国が持っているものを大切にしたうえでの成長や発展ということが大切で、国の外にあるものだけを目指すのは、ただ追従してしまうことになりかねません。
──2023年の大統領選への出馬も考えられているということですが、国のリーダーとしてどうありたいと考えていますか?
とにかく誠実さを大切にしていきたい。働きがいのある人間らしい生活ができる今の自分の恵まれた環境を、周りの人に対しても実現していきたいと強く思っています。
そして、母親が授けてくれた、高すぎることもなく低すぎることもない人間らしい生活をする知恵を、次の世代にも繋げていきたいです。
ベラ・ガルヨス(Bella Galhos) ◎ルブロラ・グリーンヴィレッジ代表。人身売買、少女兵、亡命、難民生活という数奇な人生を辿りながらも、元東ティモール大統領補佐官に就任。現在は環境教育を通して、祖国を持続可能な未来に導こうと活動している。その功績と経験から、2023年の大統領候補とされ、当選すればアジアで初の同性愛者の大統領となる。LGBTをはじめとするマイノリティ層だけでなく、女性や若い世代のエンパワメントを促進し、社会課題に対する変革を起こせる人物として注目されている。