「インスピレーション」を受けやすい人と環境の共通点


インスピレーションのはじまり


冒頭の質問に戻ります。みなさんにとって、「インスピレーション」とは何でしょうか?

まずは、歴史的にどのようにこの言葉が解釈されてきたかをものすごく簡単にご紹介させてください。

もともとインスピレーションという言葉の起源を辿ると、古代ギリシャまでさかのぼります。

ラテン語の「Inspirare」を起源にもつインスピレーションは、「息を吹き込むこと/息を吹き込まれたもの」といった意味があります。

そしてギリシャ神話では、ミューズという神々が、芸術や学問におけるインスピレーションを人に吹き込む存在とされていました(ちなみに、音楽=Musicはミューズたちの技、美術館・博物館=Museumはミューズたちの神殿、という意味からきているそうです)。

ときおり、女性ミュージシャンを「あの人はミューズだ」と言ったりしますが、厳密には、自分にインスピレーションを与えてくれる存在=ミューズというわけです。

こうした宗教的、芸術的な意味合いから生まれたインスピレーションですが、19世紀頃にはより一般的に、無意識や潜在意識から有機的に生まれるアイデアが源であると考えられるようになってきました。

そして19世紀後半以降の心理学の世界では、個の外にある「モノ・ヒト・コト」がインスピレーションの源泉になりうるとされてきました。

では現在におけるインスピレーションとは何なのか?研究結果から見えてきた、インスピレーションの正体を紐解いていきたいと思います。

インスピレーションは、人間を人間たらしめる根本要素


結論からお伝えすると、冒頭に記載したスラッシュとエリオットは、インスピレーションに関する膨大な研究結果の末、このようにインスピレーションを定義しています。

「インスピレーションとは、これまでなかった新しい発想・視点・アイデアを社会に実装したり、表現するためのモチベーションとなる『伝達行為』である」(Thrash & Elliot, 2005)

さらに、インスピレーションはこれまでの人類の文化的発展に欠かせないものであり、人間の根本要素の一つである、とまで定義しています。

たとえば、人が初めて道具を使った瞬間、新しい物語を思い描いた瞬間、あらゆる発明の瞬間など、人類の文化の発展はインスピレーションそのものであり、人間を人間たらしめる理由そのものであるとしています。

ここから読み取れるのは、インスピレーションとは、ルーティンや継続とは正反対の概念であり、なんらかの進化や変化を生み出す源泉であるということです。

そうであるならば、AI時代の到来で、ルーティン業務や統計分析でわかるような仕事がAIに代替される世界において、インスピレーションとは人間性の中心にある概念であり、AIなどのテクノロジーには代替されえない創造性(クリエイティビティ)の根幹であると考えることができます。

それは21世紀を生きる人類が最も必要とする力であり、これからの未来をより楽しくするためのカギになると言っても過言ではないはずです。
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文=杉浦太一 調査協力=清水イアン 写真=shutterstock、CINRA

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