民族の隔たりを超える。ミャンマーの人権活動家が見据える世界

ミャンマーの人権活動家 ウェイウェイ・ヌーさん


──このように民族や宗教などが入り組んだ複雑な問題に対して、どのようなアプローチをしているのでしょうか。

「若い世代が本当の民主主義を学べば、彼らがリーダーになる10年後や20年後、ミャンマーは必ずよりよい国になる」と信じて、活動しています。多様性に富んだ民族が活躍して共存できる国になることをミッションとして、それらの隔たりを超えて事業を展開しています。

ヤンゴン・ユース・リーダーシップセンターでは、英語教育や女性の職業訓練の他に、少数民族から仏教徒のビルマ人を含む若者を対象に、民族間の平和構築に関する政治&リーダーシップ教育を提供しています。

さらに、130人以上のユース活動家、20以上の平和構築NGOを束ねた連合を立ち上げ、定期的な対話も実施。女性や少数民族の人権問題に関する調査や報告、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプでは、450人の少女に対して教育活動も行っています。

ボトムアップで若者や女性の教育を支援し、トップダウンで世界の政府と連携しながら仕組みを変えていくということを意識しています。

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ヤンゴンに設立した教育施設では、約6年間で2500人を超える若者や女性、少数民族らに教育を提供

──1つ1つの取り組みにとても力強さを感じます。ウェイウェイさんの信念とはどんなものなのでしょう?

私には2つの強い思いがあります。1つは、人は生まれながらに人権の尊厳や自由を持っていると考えていること。もう1つは、民族間に敵対感を募らせ、問題を大きくしている悪しき社会構造を変えたいという願いがあります。

1人1人が偏った意見に流されることなく、きちんとした判断ができるようになれば、世界がより平和になっていく。そう信じて、リーダーシップや多様性に対する正しい考え方を伝えています。

女性と若者にフォーカスする理由


──ヤンゴン・ユース・リーダーシップセンターでは、ロヒンギャ族や少数民族だけではなく、仏教徒も一緒に学ぶ場所をつくられているのですね。女性や若者にフォーカスする理由は何ですか?

ミャンマーにおいては、単独の民族だけで構成された教育施設はあっても、ロヒンギャ族と仏教徒が同じ場所で過ごす学びの場は存在していませんでした。危険をかえりみず、敵対していた仏教徒にも教育の必要性があると伝え続けた結果、いまの形が実現されてきました。

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女性や若者にフォーカスした理由は、ロヒンギャ族に対する反感がより激化していったからです。とくに男性に対する偏見はひどく、ロヒンギャであるだけでテロリストのような扱いを受けてしまうような状況でした。なので、女性や若者の声をもっと拾い上げることで、偏見や攻撃的な意見ではなく、調和に向かうようなコミュニケーションが取れるようになると思ったのです。

人権や人の尊厳が尊重されない国々では争いが絶えません。大事なことは、多様性というものを、自分たちの利益に対する脅威と考えるか、調和に向かわせているものと考えるか、そこを見極めることだと思います。
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インタビュー=三宅紘一郎 校正=鈴木広大 写真=藤井さおり 同時通訳=古波津大地

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