民族の隔たりを超える。ミャンマーの人権活動家が見据える世界

ミャンマーの人権活動家 ウェイウェイ・ヌーさん

利益向上、市場拡大、株価上昇と、目に見える成果を追い続けることばかりが、必ずしも「正解」として求められることがなくなってきた昨今。これからの組織、そして私たち個人の在り方はどう変わっていくのだろうか?

そのヒントを探るべく、日本の酒蔵の多様性を継承することを目的に、ユニークな事業展開を進める「ナオライ」代表の三宅紘一郎が、これからの社会を創るキーパーソン、「醸し人」に迫る連続インタビュー

第9回は、ミャンマーで人権活動を展開するウェイウェイ・ヌーさん。彼女は、ヤンゴンに設立した施設で、偏見や差別のない社会を実現するため、約6年間で3500人を超える若者や女性や少数民族の人たちに教育を提供している。

その活動は世界中から評価され、2014年には「BBCが選ぶ100人の女性」、2017年には「TIME誌の次世代リーダー」、2018年には「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。世界中のトップリーダーたちが集まるダボス会議でも登壇し、ホワイトハウスや国連でも定期的に講演を行なっている。


──ウェイウェイさんは2012年、ミャンマーで、弱者である少数民族の女性を支援する組織「Inclusive Futures Foundation」を設立されました。その活動はいま世界へと広がっていますが、原動力となっているものを教えていただけますか。

私はミャンマーの少数民族、ロヒンギャ族として生まれました。ミャンマーは1948年の独立から1989年までは、国名をビルマ連邦としていて、長い間、軍事政権が続き、2010年以降にようやく民主化が進みました。しかし、現在もまだ少数民族への弾圧は続いています。

私が大学生だった2005年、15人の警官が、夜中に突然家に押し入ってきました。民主主義活動家であった父親が「アウンサン・スーチーさんと一緒にいた」というだけの理由で家族全員が逮捕され、獄中生活を余儀なくされました。1室に100人以上が収容されるプライバシーもない環境で、18歳からの7年間を獄中で過ごしました。

私は、同じように投獄されていた女性たちの劣悪な生活環境を目の当たりにして衝撃を受けました。「これは人権侵害だ」と、刑務所に人権遵守と生活環境の改善を求めました。

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2012年の釈放後、夢や希望を失っている若者や女性たちの姿を見て何かの役に立ちたいと思い、「Inclusive Futures Foundation」を設立。ミャンマーの平和構築のための教育施設「ヤンゴン・ユース・リーダーシップセンター」を立ち上げました。

民族の隔たりを超えた事業を展開


──ウェイウェイさんの活動を知るまで、私はミャンマーで何が起きているか意識することがほとんどありませでした。ロヒンギャ族の現状を教えていただけますか?

ロヒンギャ族はミャンマー西部のラカイン州で暮らしている、大半がイスラム教徒の少数民族です。ミャンマーでは国民の90%が仏教徒であるため、政府はロヒンギャ族を国民として認めていません。

ロヒンギャ族の人々はミャンマーで生まれたにもかかわらず無国籍となり、弾圧や他民族からの迫害に苦しんでいます。隣の国であるバングラデシュに逃れたロヒンギャ族は、2018年1月の時点で100万人を超え、難民となっています。
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インタビュー=三宅紘一郎 校正=鈴木広大 写真=藤井さおり 同時通訳=古波津大地

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