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2020.03.20

100兆円の「貯金」から「投資」へ。JAグループ運営「AgVenture Lab」に年1万人が集まる理由

荻野浩輝と齋藤潤一

平成29年6月末時点で貯金額が100兆円を突破したJAは、いまこの「貯金」を、農家の平均年齢が67歳という日本の農業業界の課題解決に向けた「投資」へ活用しようとしている。その1つの事業として「食」「農」と「地域」と「くらし」の社会課題の解決に取り組むコワーキングスペース「AgVenture Lab」を2019年5月24日に東京大手町に創設した。

AgVenture Labが創設された理由は、成長と共に拡大したJAグループと組合員らが、JAグループが大切にする「結」の精神で、地域、職業、年齢、そしてグループの枠を超えた連携をつくり、そこから生まれるイノベーションを促進するためだ。この共有スペースには、週に平均2回イベントが開催され、これまでに全国各地から農業従事者、起業家、産学官から、多種多様な延べ1万人以上が訪れた。また事業共創を目指すアクセラレータープログラムには約200件の応募があり、農業改革への需要を感じる。

そんなAgVenture Labを推進する代表理事で農林中央金庫執行役員デジタルイノベーション推進部長の荻野浩輝に創設背景を聞いた。

代表理事は、エースで4番の野球少年?


代表理事の荻野は愛知県の郊外で生まれた。農業に関わりのない家庭に育った。幼い頃から自称「あまのじゃく」で、愛知県に住んでいても、地元名古屋の中日ドラゴンズではなく、巨人軍の長嶋茂雄の大ファンだったそうだ。

その影響もあってか、野球少年だった荻野はエースで4番。その頃からチームで助け合って、ゴールにむかって努力することが大好きだったという。農業への想いの原点は、学生時代のバイクツーリング。途中で出会う農家の人に「兄ちゃん、これ食べていくかい?」というように声をかけられる素朴な交流が、地域への愛着になったそうだ。

「相互扶助」の精神でつながるJAグループに就職


荻野が就職活動をしていた頃は、バブル時代最盛期。数多くの会社の中から目に留まったのは、農林中金の田畑や牧場が広がるパンフレットだった。

「華やかな商社や銀行のパンフレットの中で、農林中金の困っている人を助けるというところに意義のある組織を感じました。全国各地にネットワークをもち、ビジネスとして儲かる儲からないではなく、困っている組合員を応援する。このような相互扶助の精神をもつJAグループに働く意義を感じました。AgVenture Labも、JAグループ連携して課題を解決しようと言う相互扶助の精神から誕生した1つの事業です」。

荻野は、有価証券やデータシステムの構築やITリスクマネジメントなど、農林中金の新規プロジェクトを歴任。その時代の最先端の事業を担当したことで、農業の課題をいち早く察知し、AgVenture Labのような新規事業の創出につながったのだろう。
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文=齋藤潤一、写真=Waki Hamatsu

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