ビジネス

2020.03.13

「社長室に行かない専務」が評価された理由

安原弘展 ワコールホールディングス代表取締役社長

撮影場所は、東急プラザ表参道原宿にあるワコールのショップだった。男性にとって女性用インナーウェアが並ぶ店内は一種の聖域で、なんとなく足を踏み入れがたいものだ。しかし、現場に現れた社長の安原弘展に、ためらう様子は一切ない。「そわそわしたのは入社後一週間だけ。すぐに慣れますよ」とからから笑う表情からは、インナーウェア一筋でやってきた矜持が感じられた。

撮影場所のショップは、2019年5月にオープンしたばかりの次世代型店舗。店内には3Dのボディスキャナー室があり、来店者はセルフサービスで自分のサイズを計測できる。中央にあるタブレットでは、接客AIが計測データをもとにお勧めのインナーウェアを教えてくれる。カウンセリングルームがあって対面で相談できるが、計測後にデータだけをもらって帰ってもいい。店頭でスタッフに話しかけられることが嫌な人も、これならストレスフリーだ。デジタル化を進めた理由を安原はこう解説する。

「日本女性の7割は間違ったサイズのブラジャーをつけているというデータがあります。本当はお客様も不安で、きちんと測りたいと考えているはず。ところが、計測は買うことが前提という先入観があって、入りづらさを感じているお客様もいらっしゃる。そこでデジタルの力を借りて、気軽に入っていただけるようにしました」

顧客接点の見直しを図る背景にあるのは、百貨店の減少だ。日本百貨店協会の加盟店はピークで300店舗以上あったが、現在は193店(19年10月末現在)に。売り場が縮小するなかで売り上げを伸ばすには、顧客との関係性を一からつくり直す必要がある。店頭での3DボディスキャナーやAIの活用も、その一環だ。

「わが社は海外のウェイトがそれなりに大きいので、『わざわざ縮小していく日本に投資する必要はない』と言う人もいます。でも、守りに入るのは、マーケットを取り尽くした後でいい。現在、数量のシェアは推定10%強。伸ばす余地は十分にある」
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文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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