小、中、高校の休校にはじまり、多くの劇場、美術館も閉館となり、デパートは開店時間を短縮、街は以前に比べ閑散として、マスク姿の人々が足早に行き交っている。
初期にはネットで様々なデマも飛び、3月に入るとトイレットペーパーなどの買い占めによって店の棚から商品が消えるなど、誤情報がいかに不安の感染拡大を助長するかを浮き上がらせた。
現在、感染者が確認された国と地域は100以上に上り、中国に次いで感染の広がっているイタリアでは感染者が12000人を超え、WHOは「パンデミック」との見解を示した。日本でもまだ日々感染者が増え続けているが、一方では横浜市立大が患者の血清からウイルス抗体の検出に成功したという希望の持てるニュースもあった。
国内での感染拡大が問題化してきた頃から、ネットで「まるで今の状況そっくり」と話題になっていたのが、2011年のハリウッド映画『コンテイジョン』(スティーブン・ソダーバーグ監督)だ。「コンテイジョン」とは「接触感染」の意。
原因不明のウイルスが世界中に拡散し、風邪に似た初期症状から急速に病状悪化で亡くなる人が増加する中、感染の進行を食い止めようと手を尽くす医師たち、生き残った家族を守ろうと奮闘する父、パニックに乗じて儲けようと企むフリージャーナリストなど、様々な人物が登場する群像劇である。パニック映画としては特別派手な演出もないが、感染拡大で起こり得る状況をリアルかつ骨太に描いている。
香港、ロンドン、東京……
まず、タイトルロールが終わって暗転したところで聞こえてくる女性の咳に、思わずドキリとさせられる。咳をしていたのはアメリカ人女性ベス(グウィネス・パルトロウ)。彼女が最初の感染者とわかる演出だ。
出張先の香港の空港から誰かに電話をしていたベスは、カフェのカウンターから離れて歩き出す。その間に挿入される、カウンターに置かれたナッツの容器、ベスとカフェ従業員のやりとり、ベスが置き忘れた携帯に気づいて呼び止め手渡す女性……といったカットが、もう既に十分サスペンスフルだ。
場面は変わって香港は九龍。ひどく具合の悪そうな若い男に始まり、ロンドン、東京と感染者と思しき人々の短い描写が続く。