闘う相手は「慣習」である 起業家に必要な推進力とは

「ムハマド・ユヌス自伝」

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、クラウドポート代表取締役の藤田雄一郎が「ムハマド・ユヌス自伝」を紹介する。


本書を読んだ2013年。私は、金融とITを融合させた新たなビジネスに可能性を感じ、起業を考えていました。日本で「フィンテック」という言葉が使われるようになったのは、ここ2、3年のことですが、当時の米国ではすでに、金融×ITでビジネスを展開する企業がいくつも出始めていたのです。

しかし、日本の金融業界の方々にアイデアを話しても、「そこにマーケットはない」と突き放される始末で、私は、自分の中に生じた違和感を解消するために、続けざまにムハマド・ユヌスの著書や金融関連の本を読んでいました。

ムハマド・ユヌスは、「貧困のない世界を創る」という壮大なビジョンを掲げてグラミン銀行を創設し、無担保少額融資を活用することで、貧しい人々の自立を支援。その活動は、世界中に広がりました。しかしながら、その道はとても険しく、「銀行はなぜ貧しい人や女性にお金を貸さないのか」「文字を読めない人たちと文字だらけの契約書を交わさなくてはならないのはなぜか」といった、金融業界の慣習に対する疑問と向き合って一つひとつ改革していく、それはまさに「闘い」の道だったと思います。

このムハマド・ユヌスの功績を通じて、金融がもたらす社会的価値の大きさを改めて知ったことは、私が新たな一歩を踏み出すきっかけになりました。

日本では少子高齢化が進行し、現役世代が高齢者になったとき、今と同じタイミングで、同額の年金をもらうのは難しいでしょう。老後に安心を求めるのなら、個人も資産形成していかなければなりません。とはいえ、金融商品の選択肢は少なく、未だに抵抗感のある方も多くいます。そういった方々が働きながら、また、子育てしながら気軽に始められて、着実に貯めていける金融商品があってもいいと思うのです。

ところが、資産運用は極端です。定期預金や国債のように、安定性が高いとされる金融商品のほとんどはリターンが少なく、その一方で、大きなリターンを望める株や為替は価格変動率が高く、高リスクです。

では、なぜその中間がないのでしょうか。「そこにマーケットはない」のは本当なのでしょうか?実現するのは、本当に難しいのでしょうか。これまでの概念にとらわれていては、安心して老後を迎えられる社会を作ることはできません。

ムハマド・ユヌスは、「困難を乗り越えるための強い推進力」を持つ、起業家です。だからこそ、人が集まり、お金も集まりました。今、日本にも社会的な課題を解決したいと考える起業家が増えています。私も、自分の違和感や疑問を解決できる起業家でありたいと思っています。


ふじた・ゆういちろう◎早稲田大学商学部卒業後、サイバーエージェントに入社。2007年にマーケティング支援事業を行う企業を創業し、12年売却。13年に大手ソーシャルレンディングサービスの立ち上げに経営陣として参画。16年11月にクラウドポートを創業。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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