「ウイルス」騒動の先に見える情報の未来

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「ロボットが風邪をひいて寝込んだ、という話ではない」

これは最近の新型コロナウイルス流行を皮肉った記事ではなく、1988年3月2日の新モデル発売日にマッキントッシュを起動すると、急に「世界に平和を」(Universal Message of Peace)というメッセージが出て訳もわからず消えた、という初のマックを狙ったコンピューターウイルス事件を伝える(いまはなき朝日ジャーナル誌の)ニュースの書き出しだ。

すでに1986年には、パキスタンのプログラマーとされる誰かが不正コピーを止めるようIBM-PCのソフトにメッセージを入れた事例(Brain)が報じられており、世間はそれが抗議なのか悪戯なのかと混乱していた。しかし当時のパソコン世帯普及率は1割程度(現在は8割)で、キーボードやマウスが汚れているせいで使った人が病気になる、と誤解を受けないようにいちいち説明しないといけない、ずっとのどかな時代だった。

いまでこそ「ウイルス」だけで通じるが、当時はなぜ病原体と同じ名前で呼ばれるのか理解できる人はほとんどいなかった。まだ数も少なく、被害に遭っても対処のしようもなく、放置しておけば感染源になったり犯人扱いされたりする。専門家も動作のメカニズムを公表すると真似する人が出ると解説してくれず、ひたすら不審なソフトを使わないようにと予防策を訴えるばかりだった。

最初は汚染されたフロッピーディスクなどの記憶媒体を介して伝染することが多かったが、1988年にはまた、パソコン通信PC-VANで日本初のウイルスが発見され、また11月には全米の1割にあたる6000台のネットコンピューターが止まったことから、逆にインターネットというメディアの存在が初めて一般人に認識されたという時代だった。

作者も不明でUFO扱い


悪役とされるウイルスだが、もともとは高価だったコンピューター資源を有効に使うために、ネットワークにつながった空き状態のコンピューターを渡り歩いて利用するためのプログラムで、自ら複製して他のマシンに寄生することから、南カリフォルニア大学の学生フレッド・コーエンが1983年に“ウイルス”と名付けた。

それが次第に他人の情報を勝手に収集したり、ファイルを破壊したりする目的に使われるようになって社会問題化した。当時はパソコンやネットを使う人も少なく、業界の特殊な話として片付けられていたが、今ではほぼ世界の6割の人がインターネットにつながるようになり、ウイルスでGAFAのクラウドでも止まれば日常生活は大混乱し、場合によっては国や世界経済を混乱させるサイバーテロともなる。
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文=服部 桂

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