「ウイルス」騒動の先に見える情報の未来

Getty Images


実は宇宙的なアルゴリズム?


こうした電子的なウイルスは、生物学的なウイルスとある意味酷似しており、感染する相手がコンピューターである点が違うだけだ。人間の代わりに主にネットワークを通して相手と濃厚接触し、その結果相手の内部に異分子として入って情報を取り込み、またそれを他のコンピューターに伝言ゲームやミームのように伝えていく。

地震や台風のような大規模な天変地異は、人知を超えた強力な自然の力で、トップダウンであっという間に地球規模の影響を与えるが、ウイルスやミームは、宿主の一部のような極小の似姿をして徐々に時間をかけてボトムアップで横に広がっていき、ついには全世界を覆いつくしていく。

もともとニュースもウイルスのように主に口伝えで膾炙していくもので、ニュースを意味する中国語は「新聞」。読むのではなく新たに聞くもので、それが最速の伝達方法だったのだ。世界の人々が情報を共有する最も自然な方法はうわさで、それはちょうど病原体としてのウイルスが感染を拡大していくのと同じように広まり、途中で聞き間違いや誤解によって変異していった。

マスメディアやネットの時代に生きているわれわれには、ニュースは瞬時に世界規模で伝わると考えているが、19世紀初頭までは情報は郵便などの移動手段を介して伝えられており、時代を画すような発見を伝える論文が全世界で読まれるようになるのにさえ数十年も時間を要したという。

心理学者のスタンリー・ミルグラムが1967年に行った実験から知られるようになったスモール・ワールド現象は、郵便を使った問い合わせで6人の友人が次々に問い合わせていくと、世界中のどんな相手とも連絡がとれるという発見だったが、まさに情報伝搬も疫病の拡散と同じような構造を持っている。

また人類学者のロビン・ダンバーが発見したように、霊長類の脳の大きさと群の大きさは比例関係にあり、人間が安定して維持できる群のサイズは150人程度とされる。群を大きくすることで情報や資源を共有し、お互いの安全を高めあうことで文明が発達してきたと考えるなら、インターネットは脳の進化を補い、その先にある75億人の群を実現するために発明されたのではないかとも考えてしまう。

コロナウイルスに直面している現在のわれわれは、その脅威に怯え、いかに感染を防ぎ健康を管理するかばかりに目が行きがちで、小さな生物学的な情報がなぜ40億年も多くの生物を介して共有され生き続けたかには考えが及ばない。それと似たコンピューターに生息するウイルスのようなプログラムで情報伝播が起き、さらにはSNSのような口伝えの情報が世界に拡散してフェイクニュースや炎上をもたらすのはなぜか?

生物学的なウイルスの現象もDNAコードの情報伝達であり、それが種の絶滅や進化をもたらす。電子的なウイルスも含めて、それらを宇宙的なレベルでの情報アルゴリズムの働きであると考える論議さえある。すでにミームという言葉でも論議はされているものの、ウイルス騒ぎで自宅待機していると、「ウイルス的存在」の持つ力をもっと広い文脈で検証してみることで、新たな世界像も描けるのではないかと妄想してしまう。

文=服部 桂

タグ:

連載

新型コロナウイルス特集

ForbesBrandVoice

人気記事