「ウイルス」騒動の先に見える情報の未来

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ウイルスなどの有害なソフトを防ぐためのセキュリティー対策は、当初は個別の「ワクチン」と呼ばれるプログラムで発見や除去の作業をしていた。いまでこそソフト会社は、対策のためのアップデートなどを自動的に行ってくれるが、その頃は被害を認めると自社製品の評判を落とすと公表を控え、「車の欠陥以外の事故まで車メーカーのせいにされているようなもの」と困惑し、ワクチンなどを提供するのは外部の小さな専門の会社だった。

被害の話題が大きく報じられるものの、現物を見た専門家もほとんどおらず、日本では「これはあくまでアメリカの話で、日本版のパソコンには感染しない」などと対岸の火事を決め込む風潮もあったが、その後に日本でも被害が出始めた。

世の中にパソコンが広まり、普通に仕事などに使われるようになると、セキュリティーソフトは必須となり、そうしたサービスを提供する会社が次第に大きくなり発言権を持つようになり、いまではセキュリティーという言葉が一般語になった。

人為的に作られたものだが、その製作者が特定されることはなく、メディアは犯人捜しに躍起になった。よく調べてみると、台湾や他のアジア地域で、ウイルスを解説している本がいくつも出ていることがわかった。詳しいプログラムのコードも出ており、誰もがそれを元に自作できる危険な本で、新しいウイルスの感染がアジア地域から始まったとする騒動もあり、以前流行したウイルスを元に手を加えたと思われるものもあった。

ところがなんと、1990年5月1日のゴールデンウィーク初日に、大阪のコンピュータークラブから、香川県の高校生がウイルスを作ったと告白したという情報が飛び込んできた。真偽を確かめる問い合わせが深夜にあったが、休みの最中で確かめようもないうちに、その話が翌日の朝日新聞に掲載されることになった。

ウイルスの作者が名乗り出て特定されたとなれば、それこそ世界初のスクープだったが、警察に事情聴取された高校生が嘘をついたと自供したことが分かって事態は一変し、翌日訂正記事が出されることとなった。

こうした誤報は出てはならないが、その後に関係者に聞くと「パソコンの話は特殊で、素人には確かめようがない」という言い訳ばかりで大いに考えさせられた。現在ではメディア関係者でもそんな発言をしたら笑われるが、当時はまだウイルスの話はUFO目撃程度の扱いだったのかもしれない。
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文=服部 桂

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