新型コロナは結局どれくらい怖いのか。データが示す「集中すべき対策」

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新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。知人から相談を受けることが増えた。彼らは、しばしば「この病気は、どれくらい怖いのですか」と質問する。

実は、この問題に回答するのはなかなか難しい。参考にするべきデータによって、結論が違ってくるからだ。

3月4日現在、中国では8万409人の感染が確認され、3012人が死亡している。致死率は3.7%だ。致死率3.7%の感染症なら、罹患者の30〜40%は重症化すると考えていい。極めて怖い病原体といっていい。

だからといって、日本人も注意すべきだろうか。私は、この主張には賛同できない。なぜなら、中国全体のデータと日本のそれは比較可能性がないからだ。

新型コロナ発生後に武漢の人口が激減


実は、中国の新型コロナウイルスによる死者数は、都市によってかなり違う。表1をご覧いただきたい。中国疾病対策センター(CDC)が定期的に公開しているデータを基に、私の研究所の山下えりかが分析したもので、2月26日現在のものだ。

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<表1>中国諸都市における新型コロナウイルスの感染数と致死率

この表を見れば、湖北省だけ極端に患者が多く、致死率も高いことがわかる。湖北省の患者は中国全土の83%を占め、致死率は4.0%だ。

湖北省以外の患者数は1万3034人で、致死率は0.8%だ。クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号では、2月18日の段階で531人に感染が確認されていたが、このうち255人は無症状だった。感染しても約半数が無症状なのだから、実際の致死率は、さらに低くなるだろう。

では、どのような地域差があるのだろうか。中国各地を致死率に応じて塗り分けると、図1のようになる。内陸部が高く、沿岸部で低いことがわかる。経済的に豊かな都市は感染者も少なく、致死率も低い傾向がありそうだ。

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<図1>中国諸都市における新型コロナウイルスの致死率

2018年の日本の国民1人あたりのGDPは3万9303ドルだ。世界第26位である。中国は9580ドルで第70位。急激に経済発展しているものの、国民1人あたりのGDPは日本の4分の1に過ぎない。なので、中国全土のデータと日本を比較しても意味がない。

2018年で、1人あたりのGDPが高いのは、北京(2万1188ドル)、上海(2万398ドル)、天津(1万8241ドル)、江蘇省(1万7404ドル)、浙江省(1万4907ドル)だ。日本と比較するならば、このような地域が適当であろう。

それぞれの都市や省の感染者数、致死率は以下の通りである。北京410人、1.2%、上海337人、0.7%、天津135人、2.6%、江蘇省631人、0.0%、浙江省1205人、0.1%となる。

天津の致命率がやや高いものの、江蘇省では死者はいないし、浙江省の致命率は0.1%だ。浙江省と湖北省での、新型コロナウイルスによる影響は、まったく別の病気であるといってもいい。

湖北省の1人あたりのGDPは1万67ドル。中国全体では第10位で、比較的豊かな地域である。

では、なぜ、ここまで地域によって差異が生じたのだろうか。

3月4日、北京大学の研究者たちは、新型コロナウイルスには毒性が異なる2種類が存在すると報告した。湖北省の中心都市である武漢で流行したのは、どうやら毒性が強いものらしい。このことが武漢とそれ以外の地域の死亡率の差をもたらした可能性があるが、そもそも小規模の臨床研究に基づくものであり、多くの研究者は懐疑的だ。

私が注目しているのは都市機能についてだ。私は、武漢の都市機能が麻痺したことが、多くの死者を出したと考えている。

これについては、武漢の人口を見れば、一目瞭然だ。新型コロナウイルスが発生する前、武漢の人口は1419万人だったが、現在は約900万人に減っている。500万人以上が武漢から流出したことになる。

そのうちの一部は、春節の旅行で出かけた人が、1月23日午前10時に発令された「マーシャルロー(戒厳令)」で武漢に戻れなくなったためだ。また、この情報が午前2時に漏れたため、発令までの時間で約30万人が逃げ出したとされている。

武漢を去った人の多くは若年世代で、急いで逃げた人のなかには、子どもを抱えていた人も多かっただろう。実は、このような世代こそ、社会を支える現役世代の人たちだ。

その中には、もちろん医療従事者も含まれる。新型コロナウイルスの流行が判明後、北京政府は多くの医師や看護師を武漢に送りこんだが、病院は彼らだけで回っているわけではない。事務員はもちろん、出入りの業者の協力がなければ、円滑には運用できない。このような人たちの働きまでを外部からの協力者だけで補うことは不可能だ。現役世代の不在が続けば、社会には必ず不都合が生じてくる。
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文=上 昌広

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