新型コロナは結局どれくらい怖いのか。データが示す「集中すべき対策」

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中国並みに流行すると7356人の患者が


感染の予防と並んで、高齢者への対策で重要なのは、早期診断、早期治療だ。

新型コロナウイルスに限らず、高齢者が肺炎を発症すれば、救命できる可能性は低くなる。助けたいなら、早期診断、早期治療だ。ところが、専門家会議の議論を聞いていると、このことがまったく軽視されている。

厚労省は、高齢者が相談センターへの問い合わせを認めるケースとして、37.5度以上の発熱が2日以上続く場合に限定してきた。高齢者が2日間も高熱を放置すれば、状態は悪化する。点滴で脱水を補正し、解熱剤で体力の消耗を抑える必要がある。

また、必ずしも発熱の原因は、新型コロナウイルスとは限らない。普通の風邪やインフルエンザの可能性もある。これらは臨床症状だけでは区別できない。インフルエンザならタミフルなどの治療薬がある。早期に投与すれば、1日程度は発熱が短くなる。高齢者にはこの1日が大きい。

厚労省の議論はデータに基づかず、的外れなことも多い。例えば、重症患者への集中治療だ。厚労省が2月25日に発表した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」には、入院を要する患者について、「病床や人工呼吸器等の確保や地域の医療機関の役割分離(例えば、集中治療を要する重症者を優先的に受け入れる医療機関等)など、適切な入院医療の提供体制を整備する」とある。

私は、この仮定は実態と合わないと感じている。中国では死亡例の5割は70歳代以上だ。2020年の中国の高齢化率は12.1%であるのに対し、日本は28.5%だ。日本で流行すれば、死亡者の75%程度が70歳以上になるだろう。

このような高齢者がウイルス性肺炎を悪化させた場合、ICUで人工呼吸管理を選ぶ医師がどれだけいるだろうか。点滴や酸素投与などで保存的に治療し、それで回復しなければ、苦痛緩和を主眼にした緩和治療へと移行する場合が大部分だろう。集中治療室の需要は少ないはずだ。

3月4日現在、中国で新型コロナウイルスと診断された患者数は8万409人。不顕性感染や軽症で診断されていない患者がいるため、実際の感染者数はもっと多いだろうが、仮に日本でも中国並みに流行したとすれば、日本では7356人の患者が発生する。

これからも感染拡大は続くだろうから、2倍の1万5000人と仮定しよう。致死率を浙江省なみに0.1%とすれば、重症化するのは1%程度となるだろう。すると重症患者数は150人だ。

このうちICUなどで集中的治療を要するのは、3割の45人だ。現在、日本には4つの特定感染症指定医療機関が10床、55の第一種感染症指定医療機関が103床を有している。十分に対応できる。

残りの105人の重症患者はおそらく70歳以上の高齢者だ。点滴や酸素投与で保存的に治療することになる。人工呼吸器や人工透析などの特殊な医療機器は不要だ。

新型コロナウイルス感染患者と他の患者を同じ病棟で治療することはできないから、独立した病棟が必要になるが、結核病床の稼動率が30%程度であることを考慮すれば、何とか調整は可能だろう。日本には、535の第二種感染症指定医療機関が存在し、1758床の感染症病床と3502床の結核病床を保有している。

新型コロナウイルスに対峙するに際し、過度に悲観的になる必要はない。正確なデータに基づいた現実的な議論が必要だ。けっしてパニックに陥ってはならない。

連載:現場からの医療改革
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文=上 昌広

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