新型コロナは結局どれくらい怖いのか。データが示す「集中すべき対策」

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感染拡大を防ぐより死者を減らすこと


その結果、取り残されるのが高齢者だ。高齢者が自宅に閉じ込められると基礎疾患を悪化させる可能性が高い。

私たちは東日本大震災以降、福島県浜通りで診療を続け、地元住民の定期的な健康診断をサポートしている。2011年5月21、22日に、飯舘村の村民を対象に健康診断を行った。564人が前年も健診を受けていたが、体重、血圧、血糖値、中性脂肪濃度は明らかに上昇していた。さらに12%の人たちが、PHQ-9スコアで10点以上を記録、大うつ病の基準を満たした。この数値は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めることになる。

実際、福島県浜通り地方では、震災直後、脳卒中や肺炎が増加し、多くの高齢者が亡くなったことがわかっている。同じことが武漢で起こった可能性は高い。

新型コロナウイルスに感染して亡くなるのは、もっぱら高齢者だ。図2は中国における年齢別の致死率を示したものだ。60代を超えると致死率が急上昇するのがわかる。

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<図2>中国におけるCOVID-19感染後の致死率
出典:The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19)──China 2020

2020年2月28日現在 山下えりか

武漢では、都市機能が停止したことで、高齢者の持病が悪化し、そこに新型コロナウイルスの感染が被ったため、多くの死者を出したと考えることができる。

では、日本での新型コロナウイルス対策は、どうすればいいのだろう。

私は現状に合わせて、柔軟に対応するしかないと考えている。

まずは、新型コロナウイルスの蔓延、つまりパンデミックは避けられないと認めることだ。クルーズ船のなかでの大流行、世界各地への拡大を見ればいい。潜伏期があり、約半数が感染しても無症状である、そのようなウイルスの感染を防ぐことに、かつて人類が成功したことはあったのだろうか。

私は、実現不可能な目標を掲げるべきではないと考える。無駄な資源が投下され、被害が増すからだ。クルーズ船の感染を「水際で食い止める」という実現不可能な目的に固執した日本政府は猛省が必要だ。

感染症の特徴は、悪性腫瘍や心筋梗塞、脳卒中と異なり、病原体がクリアされれば、後遺症なく治癒することだ。なので、最も重視すべきは、感染拡大を防ぐことではなく、死者を減らすことだ。

中国の臨床研究では、子どもや妊婦が罹っても重症化せず、治癒することがわかっている。若年世代の致死率も低い。問題は高齢者なのだ。彼らを新型コロナウイルスから守ることに集中すべきだ。

高齢者への感染予防だが、そのためには、現役世代や子どもたちにも協力を仰ぐ必要がある。家庭などでは、彼らが高齢者に感染させてしまうからだ。

特に医療機関や介護施設での集団発生は絶対に避けねばならない。高齢の感染者を自宅や他施設に移すことは難しく、いったん発生すると、病院や介護施設という閉鎖された空間では、クルーズ船と同じような大流行が起こりやすいからだ。

このような施設の入居者は頻繁に外出するわけではない。彼らが感染するとすれば、職員か見舞い客からだろう。彼らを守るには、このような若年世代の行動変容が必要だ。少しでも体調が悪ければ、施設での仕事を休んだり、面会を止めたりするような意識改革が必要だ。

遺伝子検査(PCR)も意識改革には有用だろう。自分が感染しているとわかれば、行動を慎むからだ。ところが、厚労省はPCRを重症例の確定診断に使うという方針を変えていない。
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文=上 昌広

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