クラシックな料理に嬉しくなる 夫婦が営む官庁街のビストロ

カフェ・デ・ミニステール


この店の料理は、ボリュームがあるので確実に満腹になる。それは味が濃くてとか、つくり手の主張を感じて胸もいっぱいになってとかではない。とにかく、素直に、文字通りの「お腹いっぱい」だ。

フランス語で「générosité」(気前の良さ、寛大)という言葉で、自分の店や料理を形容するシェフやオーナーにたまに出会うけれど、ここのシェフもその1人だろうと思った。

牛ほほ肉も、ホタテも


2週間後、そんな料理や店が好きな料理人の友人を誘って、またランチに出かけ、その後も1人で何度か食事に行った。

2度目に行ったときは、仔牛肉のメインを頼み、やっぱりあのホタテも食べてみたいと訪れた3度目は、黒板に書かれていた牛ほほ肉のブルギニヨン風に惹かれて、予定変更してしまった。

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ホタテを後回しにして頼んだ牛ほほ肉のブルギニヨン風

4度目にしてやっとホタテのメインを注文。実は、私は、滅多なことではホタテの料理を頼まない。その風味の濃厚さに、頭のてっぺんから指の先まで、旨味で詰まってしまうような感覚になることが多いからだ。できれば、ひと口ふた口だけ食べたい。でも、レストランではそういうわけにもいかない。

それでも食べてみたくなったのは、このシェフなら、そんなことにはならない気がすると思ったからだ。この店を最初に訪れ、友人の皿を見ていたときにはわからなかったが、いざ食べようとすると、皿の上にある貝殻は3つでも、ホタテの身は6つだった。

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上にふんだんにかかっているのはトリュフ。ホタテの一皿はもう季節の終わりを迎える。

ホタテにはソースが控えめにかかっていて、それがまた美味しかった。ホタテのヒモをスモークしたものに白ワイン、マッシュルーム、エシャロット、生クリームに卵黄を加えてつくっているのだそうだ。ソースだけごはんにかけてオーブンでちょっと焼いて海苔で巻いて食べても美味しいにちがいない味だった。

ホタテとソース、ジャガイモとソースを合わせて交互に食べていたら、貝殻の上は順調に減っていき、そしてなくなった。もしかしたら、もうしばらくホタテはいいやと感じるかもしれないと思っていたのに、これはまた食べたくなるな、そんな余韻に浸りながら食べ終えた。

すっかり顔見知りになったシェフに、まさか6つも身が入っていると思わなかったと伝えたら、「いつもだよ。たまに身が大きいと5つにすることもあるけれど、基本は6つだよ」と、さも当然と言わんばかりに答えた。
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文・写真=川村明子

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