クラシックな料理に嬉しくなる 夫婦が営む官庁街のビストロ

カフェ・デ・ミニステール


運ばれてきたサラダは、それぞれ予想を鮮やかに裏切るものだった。

色とりどりのビーツのサラダには、小さな角切りのりんごと細かくしたゆで卵が散らしてあり、楽しげな色合いだ。最近よく見かけるような、ビーツを大きめに切って、お皿の余白を生かすような盛り付けを想像していたので、皿の縁までこんもり盛られたサラダに、途端に嬉しくなった。

アンディーヴとシャンパーニュ産レンズ豆のサラダは、はちみつ入りのマスタードを使ったドレッシングの黄色が映えて、冬野菜のサラダなのに、春のような彩りだ。

食べてみると、それぞれの素材を噛んだ感触や、舌触り、火を通した野菜の汁とフレッシュな野菜の汁、それらの苦味酸味甘みがいくつもの角度からやってきて、「もっと食べたい!」という気持ちを誘い出す。

そして、どこでも食べたことのない、意外性のあるものなのに、どこか懐かしい感じもした。塩気は適度で、食べ終えた皿に、ドレッシングはほとんど残っていなかった。いずれも、いくつかの食材を合わせて盛っただけではない、“料理としてのサラダ”だった。

続くヴォロ・ヴァンも、予想を上回るものだった。クラシックな装いの料理だろうとは思っていたが、なんとも堂々たる姿で、嬉しくて笑いが込み上げるくらいだ。私が記事で見たものには、グリーン・アスパラガスと春のきのこであるモリーユ茸があしらわれていたが、季節で変わるのだろう、ふんだんにトリュフが削ってある。

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ご馳走を食べた気持ちで満たされるヴォロ・ヴァン

実物を前に、「やっと本物に出合えた」と少し厳かな気持ちで、ヴォロ・ヴァンにナイフを入れた。外にあふれた部分だけでなく、パイの器のなかにも惜しみなく具が詰められている。そして、クリームソースもリ・ド・ヴォーもパイも、どれもがきちんと料理され、味わいにはふわっとした優しさも含まれていた。

友人のオーダーしたホタテのひと皿には、貝殻の縁に沿ってジャガイモのピュレが絞られていた。確かにメニューには「pommes Duchesse」(ポム・デュシェス:ジャガイモのピュレでの飾り)と書かれていた。こんな風にジャガイモで飾られたホタテって、本当に幼い頃、デパートの食品街で売っているのを目にしていた気がする。でも、フランスに来てから、これまでに見たことがあっただろうか。
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文・写真=川村明子

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