知らない、はリスクだ。堀潤が「わたしは分断を許さない」に込めた覚悟

最新ドキュメンタリー「わたしは分断を許さない」を手掛けた堀潤監督


「災害があれば現地に行くようにしていますし、いろんな現場がある中で、AかBか選択を迫られる場面で市民を翻弄している場所、いわゆる分断が起きている場所に行くようにしています。そんな現場では、Aの主張もあればBの意見もあり、それぞれの選択に理由があります」と、堀は答える。

その際に重要なのが、メディアの役割だという。

「イメージは疑心暗鬼を生むし、誤った固定観念が人を遠ざけたりします。イメージに翻弄されるほど危ういことはありません。逆に知ることによって、確固たる自信を持って自分で選択することができます」

日本の若者が国際ニュースへの感度を高める理由


そんな中、こんな明るい兆しもある。「最近、日本では若い世代が国際ニュースへの感度を高めている」ということだ。BBCやAFP、AP通信など海外メディアも、日本語版のニュースを配信している。SNSの発達によって、テレビや新聞など既存のメディアに頼らなくても海外メディアの情報に触れることがたやすくなったためだ。

「そもそも既存メディアの国際部、政治部、経済部のように部門が分かれているのは組織内の都合。本来であれば、世界経済、社会問題、エンタメ情報、国内外のニュースなど垣根そのものが必要ありません。それらを俯瞰して見ないとわからないことがあります」と堀は語る。

堀潤

最新作「わたしは分断を許さない」も、香港やシリア、パレスチナ、福島、沖縄など数々の世界の現場を一本のタイムラインでつないでいるようだ。

堀が今作について取材を受けた際に、記者からこんなことを聞かれたことがあったという。現場ごとに一本のドキュメンタリーができますが、なぜ国内外の現象をこれだけ混ぜているんですか、と。堀はこう切り返した。

「ご飯が食べられない。家族と引き離されている。家が急に奪われた。行きたい場所に行けなくなった…。この普遍的な価値に何か違いがありましたっけ。肌の色や生活様式、宗教などは違ったとしても、こうありたいという、幸福の追求のあり方は、人間みな共通して大事にしたいものですよね」

自分の気持ちに「分断」は起きていないか?


その普遍的価値を差し置いて、「自分には関係ない」「◯◯という国が悪いから」と、そもそも自分の気持ちの中で、勝手に「分断」させてしまってはいないだろうか。

劇中には、シリアで武装勢力に拘束されたのちに解放されたフリージャーナリスト安田純平も登場する。無事帰国したにも関わらず、自己責任論を突きつけられ、激しくバッシングされた。帰国後の会見の冒頭、フラッシュが点滅する中、安田は深くお辞儀をした場面もあった。拍手で迎え入れたのは数人のフリージャーナリストだった。そんな彼が、言った言葉に堀は深く共感した。
次ページ > 日本人は、シリアの話に関心がないんじゃないですか?

文=督あかり 写真=Christian Tartarello

タグ:

連載

#分断に思う

ForbesBrandVoice

人気記事