知らない、はリスクだ。堀潤が「わたしは分断を許さない」に込めた覚悟

最新ドキュメンタリー「わたしは分断を許さない」を手掛けた堀潤監督


アメリカで偶然遭遇したデモの意味


2012年12月のある夜。ロサンゼルスの高級ホテル前で、暗闇の中、一般の人たちが「パレスチナに自由を」「恥を知れ」などと抗議の声を上げていた。ホテルでイスラエル国防軍の資金集めのパーティが開かれるため、次々とアメリカの政財界の要人たちが車に乗って、抗議する彼らの前を通り過ぎていく。

アメリカ政府や財界のイスラエルへの軍事支援に抗議するデモの現場だ。堀はたまたまフェイスブック上でデモの情報を見つけ、取材帰りに車で現場に立ち寄ったのだという。堀は「実は、当時はこのデモの重要性をそこまで理解していたわけではなかった」と明かす。

デモの参加者はせいぜい20人程度。他のメディア関係者は誰もいなかったが、堀はカメラを回し、参加者の声に耳を傾けた。

キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の聖地である都市エルサレムを巡って、パレスチナとイスラエル双方が権利を主張して、長年対立しているパレスチナ問題。国連や歴代のアメリカ政権などによって、両国の和平交渉は「2国家共存」を目標に進められてきた。だが、オバマ政権下ではイスラエル軍に対して300億ドル以上の支援が行われた。

2年後、ガザ地区で死者は2200人以上


このデモが発生した当時は、パレスチナでの「分断」の深化の始まりだった。

撮影から2年後の2014年、イスラエル軍はパレスチナ自治区・ガザにドローンを使った大規模な軍事侵攻を行い、市民を巻き込み、被害は死者2200人以上、負傷者11000人にも及んだ。

最近では、親イスラエル派のトランプ大統領が、これまでの「2国家共存」を逸脱した中東和平案を提出し、国際社会から非難されている。トランプ大統領は2017年にはすでにエルサレムをイスラエルの首都と定めており、この「和平案」ではパレスチナの領土がイスラエルに取り囲まれ、「分断」を深める形になっている。

堀潤

堀は、この実体験から、「分断」の端緒があったとしても、人はなかなか気づくことができないという。「当時は価値すらわからなかったけれど、振り返ると、いまどうなっているのか。最初は出来事に対する知見が足りなくても、必ずステークホルダーの中で知恵が繋がり、現場の情報のリレーが始まるのです」

この「ステークホルダー」というのは、堀が海外取材の際に協力しているNGOやNPOなど、市民や現場で活動する団体など市井の人々を指す。堀は国内外問わず、ニュースの現場を駆け巡っているが、あまたの情報の中から、どのように取材先を決めているのだろうか。
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文=督あかり 写真=Christian Tartarello

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