私が声をあげた時、あなたはそれを優しく受け止めた

受け手の存在は、生きていく上で不可欠だ


目の前で一部始終を見た友達は「先生に言おう」とはっきり私に言った。小学生の私たちは「痴漢」に対して、どう接したら正解になるのか全くわからなかった。でも、彼女は誤魔化そうとする私に自分が考えられる最適解を提示した。そして、先生に伝えるときもずっとそばで立っていてくれた。私が話しにくい時は言葉を補った。

痴漢の主は、その後警察によって捕まった。常習犯でその辺りをうろうろしながら、学生を目当てに犯行を及ぼしていたとあとで聞いた。もし、あの時彼女が大丈夫じゃない「大丈夫」をそのままにしていたら、被害者は増えていたのかもしれない。自分の口から先生や警察に伝えることは正直しんどかった。それでも友達の存在は大きかった。

「働き方を変えよう」


生理痛が重くて、会社を休むことがあった。病院に行ってもどこも悪くない。痛み止めを飲みながら、波がおさまるのを待つことが多かった。ある時この状況をなんとか変えたいと思い、勇気を出して生理痛を上司に相談したことがある。

初めて部下からそんな相談を受けて戸惑っている顔を今でも忘れられない。その顔を見て正直、少し後悔した。これで仕事を任せられなくなったらどうしよう。

当時の上司はその後生理にまつわる本を貪るように読んだ。文字通り、勉強したのだ。そこで女性にとって「生理」を彼なりに解釈し、働き方に関する重要な課題だということに気づく。そこで私に「働き方を変えよう」と提案した。リモートワーク、生理休暇、人の少ない別室での仕事、我慢をすること以外の選択肢は瞬く間に増えた。

「井土さんは悪くない」


うっかりしていたのかもしれない。隙があったのかもしれない。自分が悪いのだろう。

涙でいっぱいになりながら、私は震える手で同僚に電話をかけた。1時間前に自分の身に起きたことが信じられなくて、自分を落ち着かせたい半分で言葉が滝のように流れた。

同僚は落ち着いた様子でずっと私の話に耳を傾けた。時折、自分のことも話しながら、私の荒げた呼吸が鎮まるのを待つようにして。会食で外部の人からセクハラを受けたのだった。二人っきりの状況が出来上がってしまい、油断した時だった。

同僚が落ち着いて聞いてくれたおかげで私は思ったよりも早く冷静になることができた。同僚は繰り返し「井土さんは悪くない」と語りかけてくれた。頭を支配するネガティブな感情一つ一つに絆創膏を貼ってくれるような優しい言葉だった。

次の日、すぐに上司に相談し、会社として動く判断が下った。セクハラをした相手はあっさりと非を認め、謝罪を受けた。「井土さんは悪くない」。その言葉があったから、私は今も元気に出社している。時々思い出すことはあるが、生活に支障はきたしていない。あれ以上被害を大きくしたくない、と声をあげることを選んだが、それは同僚の存在が大きかった。
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文=井土亜梨沙

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