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2020.03.08

ESG投資への熱気を理解するための「3つの命題」

本連載2019年8月号で、「環境(E)、社会(S)、企業統治(G)」を重視する「ESG投資」のうち、例えば、環境を汚す会社を外す「ネガティブ・スクリーニング」方式や、環境にやさしい企業だけを選別する「ポジティブ・スクリーニング」による投資戦略には、企業行動に影響を与えるような結果を出せないかもしれない、という問題があることを解説した。

スクリーニングの結果リターンが低いことを明示的に許容するESG投資には、リターンを重視する目標である「受託者責任」を負う年金基金は投資できない。このように単純な投資先選別によるESG投資戦略は、成功に結び付かない。

では、現在のESG投資への熱気はどのように理解すればよいのだろうか。次のような命題が成立すれば、ESG投資には追い風である。

第一に、ESGを重視している企業への投資は実はリターンを引き上げる、ということが実証できれば、どのような投資家も安心して投資できる。ESGを重視している企業の業績がほかの企業よりもよく、結果として配当引き上げ、株価上昇につながっている、といえることが命題である。

第二に、ESG投資を長期的な投資と位置付け、長期的なリターンと許容リスク(ボラティリティー)で測ると、ボラティリティーに対するリターンは高まるという命題である。

第三に、ESGを投資決定のさまざまなファクターのひとつと位置付けることで、ESGをインテグレートした投資戦略を考えると、ESGファクターを考慮しない投資戦略よりも、リターンは高くなる。

このような命題の証明(あるいは否定)には、まずESGをどのようにして測るかという問題がある。ESGインデックス(指数)を公表している機関は、MSCIをはじめとして多くある。このような各種ESG指数の間には、あまり相関が高くない。つまり、何をESG(への貢献)と考えるかについて、業界内に合意がない。

第一の命題の考え方は、ポジティブ・スクリーニングとネガティブ・スクリーニングの考え方に近い。企業行動のESG適合度は、白と黒の二択ではなく、白と黒の間の灰色の濃淡も数値(指数)化できる、と考えるのが現実的である。リターンと指数の間に正の相関が確認できるかどうかが命題の検証となる。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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