ネタバレ厳禁の映画をどう宣伝したのか。「パラサイト」公開までの舞台裏

Rachel Luna / Getty Images


ポン・ジュノ監督からネタバレ禁止のお願い


カンヌ国際映画祭での公式上映前に、ポン監督からは、「観客にはハラハラしながら物語の展開を体験して欲しい」と、序盤以降のストーリーを一切明かさないように「ネタバレ禁止のお願い」メッセージを受け取った。監督の意図は十分に理解していたのだが、正直、少し困惑した。公開に向けて、具体的な内容が説明できない作品への期待値をどう上げていくべきか、当初は課題だと感じたのだ。

「見ることはできないが、間違いなくすごいモノがそこにある」「言えないけれど、すごいモノを見てしまった」という状況に直面したとき、誰かに伝えずにはいられないのが人間の性(さが)。そうした詳しく言えない、「すごいモノ」を他人に説明する際には、図らずもシンプルで力強い言葉になりがちだ。例えば、「とにかく見て欲しい」「とてつもない面白さだ」というように。

本作の強みである、このポイントを最大限伸ばしたいと思った。シンプルだけれど、力強く熱量のある言葉は人を動かす。これまでもポン監督の作品を応援してくれている日本映画界の名監督や俳優の方々からは、通常のマスコミ試写(メディアや評論家向けに行う試写会)よりも先んじて「パラサイト」をご覧いただき、素晴らしい応援コメントを頂戴した。それらを、ポン監督の「ネタバレ禁止」メッセージと併せて、早期から業界内外問わず発信していった。

その後のマスコミ試写も満席が続き、業界内での期待値が日々高まっていくのを肌で感じた。そこから生まれる口コミと熱気は「すごい映画が公開されるらしい」と話題になり、映画ファンへの期待に繋がっていった。

さらに、そんな感度の高い映画ファン向けに、日本最速試写も行った。そこでは、アカデミー賞に向けたキャンペーンで来日は難しいだろうと思われていたポン監督にも、サプライズ登壇をしてもらい、トークでは逆に「ネタバレ解禁」の裏話もたくさん披露していただいた。観れば必ず細部について語り合いたくなるタイプの作品ということもあり、アンケート満足度は非常に高いものとなった。もちろん、イベント後の作品に対する口コミも、熱狂的に支持するという内容で溢れた。

「パラサイト」の公開は、1月10日から全国131館の上映からスタートしたが、実は、その前の12月27日から、東京のTOHOシネマズ日比谷と大阪のTOHOシネマズ梅田の2館で先行の限定上映も行っていた。この期間は、監督やキャストから「ネタバレ禁止」をお願いする特別映像を本編上映前に放映。“シンプルで力強い感想”が全国公開直前に、SNS上で溢れ、こちらも連日満席となった。

こうして迎えた全国公開後は、劇場に来場していただいた方々の口コミが口コミを呼び、大ヒットへと繋がっていった。現在は、若年層からシニア層まで、映画を年に1本、2本程度しか見ないライト層の観客の方々にも劇場へ足を運んでいただけている。

私自身、カンヌ国際映画祭で初めて「パラサイト」を観たときに、映画の展開に純粋に笑って、息を呑んで観続けて、最後には自分が生きている社会について深く考えさせられた。なんて、奥行きの豊かな映画なのだろうと思った。

この「パラサイト」をたまたま観て、劇場に入ったときと出るときで、ほんの少しでも世界の見方が変わる人が増えるといいなと思っている。そして、その「たまたま」に繋がる「きっかけ」をこれからもつくれるよう、今後も日々頭を捻りながら仕事に向き合っていきたいと考えている。

文=星 安寿沙(ビターズ・エンド 宣伝プロデューサー)

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