ネタバレ厳禁の映画をどう宣伝したのか。「パラサイト」公開までの舞台裏

Rachel Luna / Getty Images

ジェーン・フォンダが「作品賞は、『パラサイト』です」と読み上げる。映画の歴史が動いた瞬間だった。その模様を中継で見ていた社内は、歓喜の大絶叫。マスコミ各社へ受賞結果をリリースするため準備を始めていたが、私は手が震えて上手くタイピングができなかった。

弊社が日本配給を担ったポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」(以下「パラサイト」)が、第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門を受賞した。

長いアカデミー賞の歴史のなかで、外国語の映画が作品賞を受賞するのは初めて。この歴史的快挙は、世界各国で映画にかかわる人々に大きな希望を与えたにちがいない。国も言語も関係ない。素晴らしい作品は、それらを超えて評価される時代になったのだと。

アカデミー賞の前からヒットしていた


映画好きの方なら、「ビターズ・エンド」という映画配給会社の名前を、一度は目にしたことがあるかもしれない。弊社は、主に世界三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネツィア)などで作品の買い付けを行い、劇場で上映するまでを担う独立系の配給会社だ。

作家性の濃い監督の作品を多く取り扱っており、日本はもちろん、ヨーロッパ、アジアなどさまざまな国で製作された良質な作品を、日本の観客へ届けている。また、1人の監督の作品を長年にわたり買い付け、配給し続けているのも、弊社の特色のひとつと言える。

弊社とポン監督の付き合いは、「TOKYO!」(2008年)という作品から始まった。「TOKYO!」は3人の監督によるオムニバス作品だが、このうちの1編である「シェイキング東京」をポン監督が手がけている。また、この作品は、ポン監督にとっては初めて海外で手がけるもので、香川照之を主演に迎え、11年間引きこもり生活を続ける男の運命の変遷を描いたものだ。

この作品では、弊社は製作にも名を連ねており、以後「母なる証明」(2009年)、「スノーピアサー」(2013年)、そして今回の「パラサイト」と、続けてポン監督の作品の日本での配給、宣伝を行ってきた。

アカデミー賞の追い風もあり、「パラサイト」は、日本で異例とも言えるヒットを記録することができた。15年ぶりに、日本における韓国映画の歴代興行収入第1位を記録。観客動員290万人、興行収入40億円を突破(3月8日時点)。さらには、並居る話題作を抑え、3週連続観客動員第1位に輝くなど、まだまだ記録更新中である。

とはいえ、実は「パラサイト」は、オスカー獲得の以前、1月10日の全国公開直後から劇場では連日満席の大ヒットとなっていた。

公開後すぐに、SNS上では「とにかく面白い。でもこれは観た人じゃないと話せない」「後半の展開は、想像できずビックリした」「詳細を言いたいけど言えない! とにかく最高だから見て!」など、「ネタバレ厳禁」に注意を払っていただいた感想が溢れ、次々に広がっていった。私は、それらを目にしながら、「ああ、よかった……」と束の間ホッと胸をなでおろしたのを覚えている。

というのも、「パラサイト」のプロモーションを行うにあたり、宣伝展開の骨子のひとつに「ネタバレ厳禁」を掲げ、その取り扱いについて思案を重ねてきたからだ。
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文=星 安寿沙(ビターズ・エンド 宣伝プロデューサー)

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