ピチャイは、渋谷に完成したスタートアップ支援の拠点「Google for Startups Campus」の式典に出席するために極秘来日。このインタビュー後、グーグルの創業者で親会社アルファベットのCEO、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがまさかの退任を発表した。世界を塗り替えた二人の後任として最高経営責任者に指名されたのが、ピチャイである。
インタビューを通じて見えてきたのは、彼自身が人生で得た気づきが、グーグルの在り方に大きく反映されているということだった──。
真の技術革新は本来の目的を超えた、予期せぬ効果を引き起こして人類を進化させる。という話を思い出したのは、ピチャイから出身地のインドのことを聞いているときだ。
1972年、ピチャイはインド南部の都市チェンナイで生まれた。父親は電気技師で、読書が好きな母親は速記者。弟が一人いて、二部屋の集合住宅で彼は育った。英ガーディアン紙によると、居間で弟と寝起きし、一台のバイクに家族4人で乗っていたというが、現地では中流家庭である。
「私が最初にテクノロジーのインパクトを受けたのは12歳のときです」と、ピチャイは言う。
「5年もかかって、待ちに待った電話が家に設置されたのです。技術によって、こんなにも生活に差が出るのかと思い、それは本当に衝撃でした」
電話がなければ病院の予約すらできず、母親はバスに一時間以上も揺られて病院に行き、そこでさらに一時間以上並ばなければならなかった。しかし、電話の登場で時間が節約できて、家族で過ごす時間が増えたという。さらに、彼はもう一つのインパクトを挙げる。
「近所の子どもたちが集まるようになり、また大人たちも家にやってくるようになりました。いつの間にかコミュニティができて、電話機がソーシャルな意味合いをもったのです」
たぶんにこれはピチャイの父親が困った人の世話をする性格だったことも一因しているだろう。ただ、母親が子どもたちと過ごせるようになり、近所の人が電話を借りに集まり、賑わいが生まれる。この副次的な予期せぬ効果を喜ぶ感性が、グーグル入社後につながる。