高橋:ここ数年で睡眠と遺伝子の研究も進んでいて、朝型・夜型、ショートスリーパー、ライトスリーパーなどについてもわかってきています。私は遺伝子的に浅めに眠るタイプ。遺伝子にはもともとの性質があるので、その性質に反して何か変えてしまったりすると、体が持たなかったり、パフォーマンスが出せなかったりすると思います。
そもそも、遺伝子に多様性があるのだから、睡眠も多様があるのが当然で、大切なこと。大昔を考えてみれば、みんなが同じ時間に寝て同じ時間に起きるなんて危険です。朝型の人がいて、夜型の人がいて、バラバラに起きていることで人間は外敵から身を守り、集団で生きてきたんです。
それを考えると、「誰もが朝早く起きるべき」みたいな論は、遺伝子的にナンセンス。同じ時間に起きた方がいいのは、例えば近代以降の労働システムの中でできた雇用側の都合なので、人の個別の体質や遺伝子などを考えた結果ではないですよね。
──組織としては労働時間を揃える方が都合や効率がいい一方で、組織を支えている個人がそれぞれにあった睡眠をとるほうがパフォーマンスが高まる。ジレンマがありますが、最近は後者の意識が高まっていますね。お二人はこの現状についてどうお考えですか?
高橋:まず自分のデータを知って、自分の体質や性質を把握した上で「自分に自信を持つこと」が大事だと思います。私は今回睡眠データをとって改善して、自分の睡眠に自信を持てるようになりました。
今までは、「お恥ずかしながらロングスリーパーなんですけど……」という感じだったのが、今は遺伝子と睡眠解析データの情報をもって、「これが、私がパフォーマンスを一番発揮できる睡眠スタイル」と堂々と言える感じです。
でもこれは私の場合。睡眠は人によって違うので、人と比較せず、自分のデータを軸に自分のパフォーマンスを最大限に発揮する睡眠方法を考えていけばいいのかなと。そうすることで結果的に、自分の人生にも、所属する組織に対しても、最高のパフォーマンスが出せますよね。
小林:最近口々に“多様性”と言われるようになり、個人とそのパフォーマンスの関係が注目されていますが、同時に、組織がその多様性を理解して、それを認める受け皿を作ることが大事だと思っています。フレックス制を導入したり、トップが部下の多様性を理解しようとしたりして、環境とか文化を作っていくべきですね。
これまでのように画一的な働き方を求めるのではなく、スマートな睡眠をすることが個人のパフォーマンスを上げ、それが会社の売り上げアップ、さらには時価総額のアップに繋がっていく。睡眠起点の「睡眠資本主義」という考え方もありだと思っています。
──これまでは今ほど説得材料となるデータがなかったのですね。遺伝子の研究や睡眠の解析が進み、エビデンスとして蓄積していけば、企業や社会にも影響力が出そうですね。
高橋:以前は、遺伝子の研究というと疾患の領域が多かったです。最近では解析コストが下がってきたおかげで食事・運動・ダイエットのような疾患に限らない研究、それこそ睡眠と遺伝子の研究も少しずつ増えてきました。しかし、現状ではそれらの研究はほとんどが欧米人のデータで、日本人の研究はまだまだ進んでいません。逆にいうと、研究がなされればいろんなことがわかっていく可能性が高いです。
小林:とはいえ、現状は人間の睡眠のデータやエビデンスが少ないゆえに、「よく寝れた」みたいな個人の感覚が重要です。特に人間の睡眠領域において、いい眠りの判断指標の大部分は「主観」。朝起きた時スッキリしていたか、昼に眠気がこないか、夜自然に眠気を感じたかの3つがポイントで、データももちろん重要ですが、睡眠領域では主観も同じくらい研究していく必要があります。