ビジネス

2020.03.19

技術と社会の「分断」を越える。スウェーデンのRISEという挑戦

RISE institute(mb.cision.com)


市民参加型、共創型メイカー文化を日本でも


さらに、RISE interactiveでは、市民参加型の研究モデルや、一般市民によるメイカー文化(3Dプリンターをはじめとする先端技術を使い市民がものづくりを行う文化)の育成についての研究も行われている。

これらが特に興味深かったのは、私自身がもともとゲームクリエイターであり、ヒューマンコンピューターインタラクションの研究者として共創型イノベーションの研究を続けているからだ。2011年には、研究者ではない一般市民が発表できる場として「ニコニコ学会β」を創設し、5年間運営。また、その続きとして、今年2月にものづくりの祭典「Tsukuba Mini Maker Faire 2020」を開催した。

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Tsukuba Mini Maker Faire 2020会場の様子

こうした活動の背景には、日本における「研究・開発」と「市民」の分断に対する問題意識がある。できることなら研究者は、その研究が市民の目にどのように映るか自覚的であってほしいし、市民には自分たちの社会で研究者が果している役割について理解してほしい。なぜなら、その往還こそが科学技術コミュニケーションを推進し、本当の共創型イノベーション創出につながると信じているからだ。

その視点で、RISEは、「技術のデスバレー」とも言えるこの分断を越えるための挑戦を実践しているのだと理解した。スウェーデンと比べると人口面でも産業面でも規模が大きい日本では、公的機関による大胆な施策は生まれにくいかもしれない。しかし、それは公的機関だけに理由があるわけではない。

むしろ、市民レベルにおいて、地球規模で考え、持続可能でより良い社会を築いていくためには何が必要かに意識を向けるという習慣が欠けていることが原因ではないか。市民の参画によって始めて成り立つ共創型イノベーションを推進していくことがブレイクスルーになるのではないか──。今回の訪問で、目指すべき社会のひとつの可能性を見ることができた。


本記事の執筆担当者>>江渡 浩一郎
産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 共創場デザイン研究チーム 主任研究員/慶應義塾大学SFC 特別招聘教授/メディアアーティスト。1997年、アルス・エレクトロニカ賞グランプリを受賞(sensoriumチームとして)。ニコニコ学会βは、2013年にアルス・エレクトロニカ賞栄誉賞を受賞。2017年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)受賞。産総研では「利用者参画によるサービスの構築・運用」をテーマに研究を続ける。

連載:スウェーデンから学ぶ「共創イノベーション」の生み出し方
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文=江渡 浩一郎

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