1929年にNYに設立されてから、拡張やリニューアルを重ね、2019年10月には総工費4億5000万ドル(約490億円)をかけた、約40000平方フィートのギャラリースペースの増築が完了した。
年間約300万人が訪れる、NYの顔とも言える人気美術館が、なぜこのタイミングで大きな変化を遂げる必要があったのか。リニューアルを経て、作品を鑑賞すること以外の楽しみ方は、どう広がったのか。
ドローウィング・プリント部門のキュレーターで、今回のリニューアルプロジェクトのディレクターを務めたサラ・スズキに聞いた。
ピカソの「アヴィニョンの娘たち」、アンリ・マティスの「ダンス」、ゴッホの「星月夜」、アンリ・ルソーの「夢」、アンディ・ウォーホルの「キャンベル・スープ缶」など、歴史的にも重要な作品を含め、現在MoMAは、主にこの150年以内に制作された約20万点の作品を所有する。
年々増え続ける所蔵作品の数に合わせ、美術館もそのスペースを拡大することになった。これが今回のリニューアルの主な理由のひとつだ。
以前のMoMAでも、約1500の作品を展示していたが、今回のリニューアルで、約2500の作品を一度に公開することが可能になった。
新しく設置されたエントランスの照明は、人の動きと連動して光る。
「展示スペースが増えたことで、6〜9カ月のサイクルで所有作品を入れ替えることができるようになりました。定期的にMoMAに足を運ぶ来場者にとっては、訪れるたびに新しい発見のある場として生まれ変わったのではないでしょうか。
また、展示作品の全体数が多くなったことで、性別や国籍に偏りのないアーティストたちの作品を、より多様性に富んだラインナップで展示することができるようになりました」
冒頭に挙げたアーティストたちをはじめ、これまでのアートの世界の中心にいたのは、ほとんどが白人男性だった。現代アートも多く展示するMoMAは、時代を映す美術館として、昨今では女性アーティストや、アジアやアフリカのアーティストの作品のコレクションや企画展にも注力を進めてきた。
キュレーターとしての経験はどう活かされたか
1998年に研究アシスタントとしてMoMAに参画したサラは、これまで第二次世界大戦や、1910年代から1930年代の芸術運動ロシア・アヴァンギャルドにフォーカスした企画展のほか、「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」でも作品を展示した小泉明郎、中国の現代アート界を牽引するイン・シウジェン、ソン・ドンの個展の企画も担当してきた。
こうした経験が評価されたのだろう。
MoMAの館長で、2019年、イギリスの美術雑誌「ArtReview」が毎年発表する、アート界でもっとも影響力のある100組のランキング「Power 100」で首位となったグレン・ラウリーから、今回のリニューアルプロジェクトのディレクターを任命された。