大浴場もレストランもない。シンガポールの投資家が軽井沢に建てた「本当に贅沢な宿」

ししいわハウス

忙しい日々から抜け出して、静かな環境の中で自分を整える「秘密の隠れ家」がほしい。そう願ったことはないだろうか。都心から電車で約1時間の場所にある長野県軽井沢町にある「ししいわハウス」は、まさにそんな人にぴったりのブティック・リゾートだ。

設計を手がけたのは、プリツカー賞受賞者としても有名な建築家・坂 茂(ばん・しげる)氏。元々あった森の木々に沿うように、木造パネルを組み合わせて作られた曲線の壁や波状の屋根が印象的だ。洗練されたデザインでありながら、どこか愛らしく温かみが感じられる。

客室からは浅間山が見え、常緑樹、桜やもみじなど250本もの木々に囲まれた立地。同じ地区には星野リゾートやセゾン美術館があり、20分ほど自然の中を歩けば千ヶ滝が現れる。

このホテルのオーナーは、シンガポールに拠点を持つHDHキャピタル・マネージメントが設立したHDHP GK社のフェイ・ホアン(Huy Hoang)氏。シンガポールの投資会社の代表を務める彼が、なぜ軽井沢にこのようなホテルを建てたのだろうか。

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フェイ・ホアン(Huy Hoang)氏

「日本を選んだのは、自然を生かせる優れた建築家が多いからです。私は仕事柄さまざまな国のホテルに滞在してきましたが、豪華であればあるほど、大きな『無駄』をずっと感じていました。その地域の環境を変えてしまうほど大きな建物、プラスチックを多用した使い捨てのアメニティ、消費しすぎのエネルギーなど、心地よさよりも疑問が湧いてくるんです。

さらに、コンクリートや鉄筋を使った画一的なホテルならではの構造は、まるで刑務所にいるような気分にさせられます。人々のつながりや会話は遮断され、狭い部屋に閉じ込められている気がして気持ちが落ち込んでしまうのです。

このような、これまでホテル業界が大事にしてきた『豪華や贅沢(Luxury)の定義』はもう古いと私は思っています。もはや、高価な資材を客に誇示するような時代ではありません。今の時代(Today’s Generation)に生きる私たちがこれから目指すべきなのは、自然素材やリサイクル可能な素材を使用し、CO2をできるだけ排出しない、サステナブルで安らげるホテルです。

このししいわハウスは、私たちにとって、ただの事業ではなく、ソーシャルプロジェクトです。持続可能な建物であると同時に、そこに滞在することで、家族や友人同士、自然との『つながり』が感じられること。人間性を回復できる真の癒しを体験できることを目指しました。

ししいわハウスをプラットフォームにして、日本の方はもちろん、日本を訪れる世界の人々に、私たちのこうした考えを広めていきたいと考えています」

ゆるく人をつなげる曲線的な建築


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元々の地形を生かして建てたため曲線的なフォルムに

自然に溶け込むような有機的建築は、これまでのホテルには使用されたことのない「木造パネル工法」を採用して叶えられた。客室は全10室。個室は3部屋ごとにひとまとまりになっていて、それぞれの部屋は共通のリビングルームにつながっている。さらにそのリビングルームは、奥の広々とした全部屋共通のグランド・ルームとつながっており、ドアで行き来することができる。
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文=松崎美和子 写真=平井広行、松崎美和子(Huy Hoang氏、紙管家具)

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