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2020.03.05 07:00

Kickstarterを産んだ「パンクロック精神」──既存の評価システムはフェアじゃない

新國 翔大
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そうするうちに、Kickstarterは映画、音楽、絵画などのアーティストだけでなく、ハードウェア、ソフトウェアなどのテック系のベンチャーたちの目に留まるようになった。一般受けしそうにはないが、ギークやニッチなオーディエンスを狙うことができると気がついたのだ。


Gettyimages

2016年、Oculus Riftという名もないVRヘッドセットのプロジェクトがKickstarterに登場する。ゴツく、誰が好んで装着するのかと思ってしまうような原始的なものだったが、1万人近くの支持者を集め、調達額は243万7429ドルに。これにフェイスブックが目を付け、20億ドルで買収するのはその数カ月後のことだ。

そしてPebbleだ。Pebbleが最初にKickstarterを利用したのは2013年──Pebbleの創業者、Eric Migicovskyはシリコンバレーのベンチャーキャピタリストにことごとく断られた後だったという。「コミュニティ、ファンに直接リーチできる。自分と同じことに熱狂しており、あったらいいなと思っている人がいるはずという確信があった」とアドラーは代弁する。

2013年に初代のスマートウォッチプロジェクトが成功に終わった後、2015年に「Pebble Time」のプロジェクトをローンチする。プロジェクトは大成功を収めた──支持者は7万8471人、調達総額は約2033万8986ドルに達した。この金額は、いまだに破られていない。

世界が良い方向に進むものを作ってほしい


大人だけではない。「フライトシミュレーターを作ってみたい」という5人の子供たちのプロジェクトを、賛同した大人がスタートして成功した例もあるという。

クラウドファウンディングの枠組みに成功した後、アドラーらは次のステップとしてシカゴ、ロサンジェルスなどでMakerspaceを展開している。クリエイティブな人たちにものづくりの場を提供するもので、ソフトウェアでも次の仕掛けに向けた作業も進めているという。

「変化のスピードが速く、自分と同じようなアイディアを他の人がやっているかもしれないという焦りもあるかもしれない。でも、別の見方をすれば、我々はもっと実験的になれるし、遊び心を持つことができる」とアドラーはアイディアがある人に助言する。「ほんのちょっとでもいいから、世界が良い方向に進むものを作ってほしい」と願いを語った。

Kickstarterを利用して調達に成功したプロジェクトの数は約17万6500件、調達総額は47億4532万8000ドルを超える。支持者は1733万を超えた。アドラーは40代になり、父親になった。これまでのルールを破ろうというアドラーとKickstarterの挑戦は今も続いている。

文・写真=末岡洋子

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