ジェンダー・ダイバーシティが欠如すると
例えば水産業では、労働人口の半分を女性が占めています。しかしながら、その大部分が高度なスキルを必要としない低賃金な季節労働に従事しており、しかも労働者としての権利も保障されていません。
国連食糧農業機関によると、男性は主に価値が高い沖合での労働に従事しており、漁業や水産養殖に従事する労働者の81%を占めるということです。一方、女性は価値がそれほど高くない水産加工などの分野に占める割合が圧倒的に高く(90%)なっています。
また、同じ水産養殖の労働でも、女性の賃金は男性の約64%にしか達していません。しかも、女性も男性と同様に地元の資源の持続可能性に生活を左右されることが少なくないにもかかわらず、それらの資源の管理に対してはほとんど発言権を持っていない場合が多いのが実情です。
このようにジェンダー・ダイバーシティが欠如していると、生産性が低下し、革新性も阻害されてしまいます。そればかりか、海で持続的に生計を立てていくための女性ならではの名案が埋もれたままになってしまうおそれもあります。また、女性の前には、銀行からの融資や資金、技術、市場情報、起業支援を得るうえでも大きな障害が立ちはだかっています。こうした状況は変革していかなければなりません。
海洋を取り巻く課題に対処するにあたっては、ジェンダー平等を確立してきたその他の産業や部門のアプローチを応用できる可能性があります。重要な問題を解決する取り組みの中心に女性を据えることがいかに有意義であるかは、世界各地の農業の分野での前例で実証されています。
食料の生産性20%以上UPの効果も
国連食糧農業機関の報告では、女性が土地や農作物の種を利用できる立場を得ることで、また技術研修を受け市場へのアクセスを確保することで、食料の生産性が20%以上向上する成果が期待できるとしています。このことからも、女性は食料生産において大きな役割を果たすといえるでしょう。漁業と水産養殖の分野でも同じように生産性の向上と持続的な生計の確保が実現できても決して不思議ではありません。
海洋環境が直面している問題に取り組むうえでは、ジェンダー・パリティを解決策に盛り込む必要があります。数多くの国やNPO、慈善家、科学者、起業家が、海洋を保全するために有意義で斬新な取り組みを実施しています。ここでさらにジェンダー平等にも注力していけば、公共だけでなく民間や地域社会からも支援される大きな波へと発展して、海洋の健全な未来がより確実なものとなります。
SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」と健全な地球環境を実現するには、それに貢献できる力がある、人類の半数を占める女性の存在を無視するわけにはいかないでしょう。海洋を保全して持続的に利用していくための取り組みには、必ずジェンダー平等の概念を組み入れていかなければならないのです。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
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