製品供給に関しては、米シューズ・小物ブランドの「コール・ハーン」や米日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)も同様の状況にある。コール・ハーンも先ごろ、中国で生産しているシューズやハンドバッグは全体の15%であるものの、ほかの国に拠点を置く製造委託先が中国から原材料を調達していると説明していた。
またP&Gは、中国での新型コロナウイルス流行により、約1万7600種類の商品の供給が影響を受ける恐れがあると明らかにしている。
このほか、米アップルや米ウォルマート、ナイキ、米ラルフローレン、「コーチ」の親会社、米タペストリーなども、中国での需要が打撃を受ける可能性に言及している。
コーエン・アンド・コーのアナリスト、ジョン・カーナンは2月27日のリポートで「新型コロナウイルスによる混乱は相当大きなものになるだろう」と書いている。また、ナイキやドイツのスポーツ用品大手のアディダス、カナダのスポーツウエアメーカー、ルルレモンといった企業の利益予想を下方修正している。
カーナンの推定では、ナイキは売り上げの19%を中国で得て、製品の25%を中国から調達している。「ザ・ノース・フェイス」「キプリング」「ヴァンズ」などのブランドを傘下に持つ米VFコープも売り上げの15%、製品の20%を中国に依存している。中国への依存度がもっと高い企業もあり、例えば米シューズメーカーのスケッチャーズは中国からの製品調達率が45%に上っているという。
オッペンハイマーのアナリスト、ブライアン・ナゲルも「新型コロナウイルスに関連した懸念は投資家の心理にとってかなり重荷となっている」とみている。
ムーディーズ「一時的には高い代償」
米国をはじめ、各国の小売業者が調達先を中国以外に多様化させる動きは、米中貿易戦争との関係でも注目されてきた。ただ、それが新型コロナウイルス問題によって加速するかどうかは現時点では見通せない。コール・ハーンの場合は、最近提出した新規株式公開(IPO)の届け出で、中国製品の比率を引き下げる方針を示している。
また各社が今後、販売促進面での中国傾斜を見直すかどうかも注目点だろう。ベイン・アンド・カンパニーによると、例えば高級品の売り上げは中国人による国内外の購入が3分の1を占めている。
ウイルス流行のために中国での売り上げが8割急減したイタリアの高級衣料品ブランド、モンクレールは2月、複数の移転や新規出店計画の凍結など、中国市場への投資の一部延期を決めたことを明らかにしている。
これまでのところ、販売や供給での脱中国依存の動きは、どれも効果を上げるには規模が小さすぎるようにも思える。いずれにせよ、「中国への集中は一時的にはコストが高くつきそうだ」とムーディーズは指摘している。