因果応報 ゴーン軍団「チーム国外逃亡」の痛い末路

カルロス・ゴーン(Richard Bord/Getty Images)


それだけではない。昨年3月、ベネズエラでは野党指導者が呼びかけて、大規模な反政府抗議デモが起きた。治安部隊が出動し、政情が不安定になると、マドゥロ大統領を支持するグループが大統領を一時的に国外脱出させようとした。

このとき、脱出用の飛行機としてモスクワ経由で首都カラカスに降り立ったのが、金塊用に使っていたMNGの同じジェット機だった。結局、大統領は国外脱出しなかったものの、アメリカの国務長官がこの計画を暴露。国外脱出は大統領ではなく、その後、ゴーンの脱出に使われることになる。

MNGのジェット機は輸送物の中身に目をつむり、危うい輸送を請け負ってきたわけだが、ゴーン一行を関西空港からイスタンブールに運んだ後、一行はレバノン行きの飛行機に乗り換えている。こちらもMNGが運用するプライベートジェットだった。これがさらなる黒い履歴をもつ。

レバノン行きのジェット機TC-RZAの元所有者は、2016年にマイアミでFBIにマネーロンダリングと銀行詐欺で逮捕された実業家、レザ・ザラブだった。

現在36歳のレザ・ザラブはイラン生まれで、トルコを拠点にビジネスを行っていた。妻はトルコの有名な歌手である。レザはエルドアン大統領と親しいと言われ、彼は経済制裁下のイランから天然ガスと石油をトルコに向けて、密かに輸出する取引を行っていた。

経済制裁下にあるためドルやユーロでの取引ができない。そこで無刻印・非登録の金塊を使って、イランと取引を行ったのだ。発覚するや、トルコのエルドアン政権を揺るがす一大スキャンダルとなり、レザがアメリカから「闇商人」と呼ばれた。起訴後、レザは懲役75年を求刑されており、現在公判中だ。彼が犯罪に使用していた飛行機に乗って、ゴーン一行はトルコからレバノンに飛ぶのである。

MNGの過去の行為から見えてくる問題は、カネをもった特権階級であれば、法律の抜け道が用意されている、という点だ。一連の事情に詳しい香港の危機管理・安全警備専門会社Blackpandaの顧問、デイビッド鈴木はこう話す。

「プライベートジェット機に対するチェックが甘いのは、VIPは危険ではないという大前提があるからです。だから、手荷物など保安検査が緩く設定されています。一方で、VIPは秘匿性を好む。プライベートジェットのMNGはここをうまく利用して、VIPのために、あえて細部には目を閉じて、抜け穴を意図的につくっているのです」

法が支配する世界でありながら、多額のカネを支払う人には航空行政もプライベートジェットも目をつむるという不公平な世界がグローバルに構築されているのだ。

MNGは「搭乗者名簿など公式書類にカルロス・ゴーンの名前はなかった」と釈明。だが、小型のジェット機内で乗客数が名簿と違うのであれば、乗務員は気づくはずである。脱出後の騒ぎを受けて、1月1日に同社は「内部調査によって、1人の社員が独断で記録の改ざんを行っていたことがわかった」と発表。飛行機を悪用されたとして、ゴーンを刑事告訴した。

しかし、この事件を調べている情報機関関係者からは「被害者ヅラを演じている」と見られている。トルコ当局もパイロット4人を拘束。ゴーンを搭乗させたことで悪目立ちしたうえに、「風評」が広まり、利用客に影響。自業自得の末路だといえるだろう。
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文=ForbesJAPAN編集部

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