休校は本当に有効?新型コロナ対策を最新症例データから分析

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中国政府による封じ込めの効果


(図3)中国における感染症流行曲線(このグラフはPCR検査で診断が確定した44,672例のデータである):Novel Coronavirus Pneumonia Emergency Response Epidemiology Team. Vital surveillances: the epidemiological characteristics of an outbreak of 2019 novel coronavirus diseases (COVID-19)—China, 2020. China CDC Weekly. Accessed February 20, 2020. :Zunyou Wu, et al. Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak in China: Summary of a Report of 72 314 Cases From the Chinese Center for Disease Control and Prevention JAMA. February 24, 2020

不思議な肺炎が武漢で流行していると中国CDCならびにWHOに報告されたのは、昨年12月31日。今年1月7日、新型コロナウイルスが分離され、1月13日に診断キットが開発された。その後、日に日に患者数が増え、20日に習近平国家主席は「重要指示」を出した。

感染の中心地である武漢では、地域封鎖が行われた。中国政府は1月25日から始まる中国の旧正月・春節を前に、1月23日午前10時から飛行機、鉄道、バス、地下鉄、フェリーといった交通網を止めるなどして武漢を封鎖。1月24日に他の湖北省15市を封鎖し、4~6千万人の住人を留め置いた。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大を考えるにあたり、春節もキーワードである。例年この時期には、数億人もの人々が飛行機・列車・バスで長距離移動をする。その移動のなかで1人の感染症患者が長時間にわたり大勢の人と濃厚接触をすると、感染が拡大することが予測された。そのため、中国全土で春節関連行事を含む多くの集会・イベント等はキャンセルされ、事実上国全体の交通手段が制限された。1月27日からは海外への団体旅行も禁止となった。これらの一連の対策も social distancing だ。

図3の感染症流行曲線を見ると、春節直前の徹底的対策により、春節が始まってからの3日目・4日目で増加が止まり、5日目から減少に転じたのがわかる。もちろん、タイムマシンで1月23日に戻り、同期間で上記対策を実施しなかったときと比較しないと本当のところはわからない。しかし、私は中国で講じられた策は十分な効果があったと思う。集会・イベント等の禁止、地域封鎖は有効であったと考えられる。

キャリアやウイルスの潜伏期間中の人による感染を図3のように封じ込めるには、地域封鎖やイベントの中止をかなり強力な社会的介入をもって実施する必要があったのだ。

学校休校について思うこと


新型コロナウイルスの感染を防ぐためには、感染者と潜伏期間中にある濃厚接触者に近づかない必要がある。しかし、感染者のうち半数は症状のないキャリアなのだ。これに対処するには、やはり社会との距離を取る“social distancing”を行なっていくほかない。ダイヤモンド・プリンセスにおける船内個室管理の対応、中国での封じ込めの例をデータで分析したことで、その有効性を示せたのではないか。

最後に、ここまでデータを分析してきたなかで私が抱く意見を述べたい。日本政府による学校の休校要請は、ここまで論じてきた”social distancing”に当てはまるだろう。安倍首相は「何よりも、子どもたちの健康・安全を第一に考え、多くの子どもたちや教員が日常的に長時間集まることによる大規模な感染リスクにあらかじめ備える」と発言した。社会的な影響が大きいこともあり批判の声も多くあがるが、私はこの判断は英断だと考える。

中国の新型コロナウイルス関連のデータを見ると、9歳以下の致死率はゼロであるが、10歳から19歳は0.2%である。もしも学校、地域で集団感染があり1,000人の感染者が出ても、そのほとんどは風邪程度の症状が出るのみで快方に向かうだろう。しかし、そのうち2人は死亡するかもしれない。

確かに中国のデータをみると子どもの発生例は少ない。しかし、そもそもコロナは子どもの風邪の1~2割を占めるありふれた感染症だ。今回のデータは息が苦しいなど、それ相当の症状があって受診した患者のPCR 検査の結果である。

そのため、子どもの症状が軽すぎて受診せず、あるいは検査せずといった理由で診断されていないだけだとすると、子どもたちが無自覚のままウイルスを自宅に持ち帰り家族にうつす可能性も否めない。このウイルスの特性の全貌が見えていない以上、危機管理においては休校という措置はやむを得ないと私は考える。

子どもを新型コロナウイルスへの感染で一人も死なせてはいけない。小児科医である私は、切にそう願う。

文=浦島充佳

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