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2020.03.05

一種の「こんまり流片づけ」。アナログノート術が世界中で大ブームな理由

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紙の上で行う「こんまり流片づけ」


私はこれまでノート術の本を多く編集してきた。2008年にシリーズ50万部を超える『情報は1冊のノートにまとめなさい』という本を担当したことを皮切りに、愛好家の多いイタリアのノートブランド「モレスキン」の活用術の本など多数のノート術の本を作り、このジャンルを開拓してきた。

それまで書店では、「ノート術」というジャンルは存在せず、あっても「手帳術」や「メモ術」だった。今は、子供の勉強ノートの書き方からビジネスパーソンのノート術まで多くの書籍が刊行され、大型書店では「ノート術」というジャンルは定着している。だがその大半は、仕事の効率を上げたり、学びを最大化することを目的としたテクニック集だ。また、日本で独自に進化した、ノートを可愛いらしく装飾するような趣味寄りの本も少なくない。

『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』は、そうした本とは大きく異なっている。同書が、最初にエージェントから紹介されたとき、送られてきたプロポーザルには、近藤麻理恵氏の世界的ベストセラー『The Life-Changing Magic of Tidying Up(邦題:人生がときめく片づけの魔法)』が類書として記載されていて、この本の立ち位置がはっきりと宣言されていた。


近藤麻理恵氏(Getty Images)

つまり、「片づけは単なる収納スキルではなく心を整える手段」という近藤氏の主張と同様に、このノート術は単なる効率化のスキルではなく、心や人生を整えるツールということだ。明確に「こんまりブーム」を支持する世界中の読者に向けて書かれているのだ。

「こんまり」が世界中で大きなムーブメントとなっている背景には、複数の識者たちがすでに指摘しているように、近代的な価値観の転換があるのだろう。すなわち、モノ不足の時代は、より「便利な」ものをどうやって手にするかという価値観が主流だったが、モノ余りの時代になると、自分にとって「意味」あるものをどう見極めるか、という価値観へと移ってきている。

これは情報も同じだ。今や私たちを取り巻く膨大な情報は、便利であるより、自分自身を見失う弊害にさえなっている。バレットジャーナルは、デジタル時代に現代人が投げ込まれた情報洪水の中で、自分の意味を見出し、自分を自分につなぎとめておく一つの手段なのだ。

デジタル時代にあえてアナログツールを勧めるのは、決してノスタルジックな理由ではない。デジタルは大量の情報をスピーディに、効率的に、ラクに集められるが、かえって玉石混交の情報に占有されやすい。その結果、そこから自分だけの意味を見出すことが困難になる。

意味とはパーソナルなものだ。他人にとってはまったく意味のないことが、自分にとっては大きな意味を持つことがある。だから、意味を見出すには「外」の情報ではなく、「内」の情報を掘り下げるしかない。デジタルは外の情報を反射的に処理するには役に立つが、内の情報をゆっくりと、意識的に、深く掘り下げていくには向いていない。自分なりの意味を見出して人生を整えていくには、アナログのノートが有効なのだ。
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文=ダイヤモンド社・市川有人

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