赤黒い傷のインパクト。傷口のケア、心をかけて、手をかけて|乳がんという「転機」#11

北風祐子さん(写真=小田駿一)

新卒で入った会社で25年間働き続け、仕事、育児、家事と突っ走ってきて、「働き方改革」のさなかに乳がんに倒れた中間管理職の連載「乳がんという『転機』」第11回。

一歩一歩、命の洗濯


2017年5月21日、術後11日目。腕が上がらないー。イテテテ……! どうがんばってもこれが限界。

乳がん

この状態から、体の向きを90度右に回転させて、壁が体の左側にくるようにして、壁に沿って左手を挙げるとさらにきつい。毎日のリハビリをさぼると、1年後には上がらないまま固まってしまう場合もあるらしい。それは困る。地味なリハビリを地道にがんばるしかない。

中学からの悪友KKには、「一歩一歩だよ。命の洗濯と思ってさ。『はりきりゆうこ』は今まで人一倍はりきって来たからさ。はりきってゴシゴシと命の洗濯するのさ〜」と言われた。「命の洗濯」といえば、静かに一人旅に出てしまうイメージだったが、「はりきってゴシゴシと」やっていいなら、しっくりくる。さすがKK、いいこと言うなぁ。

KKは何度も「一歩一歩」という言葉を使った。ほんとにそうだな、と思う。手を真上に挙げるのに何カ月もかかるなんて、完全に「修行」の領域だ。「一歩一歩」と心してかからねば、気が遠くなってめげる。KKも競技スキーで大けがをして長い入院をしたことがあるから、きっとよくわかっているのだと思う。

一歩一歩といえば、今朝はTシャツを着ることができた。「術後は腕が上がらないのでしばらく前開きの服しか着ることができません」という定説を(かなり痛かったが)覆してみた。どうだ!(脱ぐのが痛くて嫌だけど)

……というのも「前開きの服」なるものをほとんど持っていないので、着るものがなく、やむにやまれずチャレンジしたまでのことだが。こんな感じで、日常生活の必要に迫られて、少しずつ負荷が上がっていくのが理想的なリハビリなのかな。

突然出現した、赤黒い傷


術前は「全身麻酔が怖い!」という目の前の心配に支配されて、その先のことを考えていなかったが、手術のあとには「術後」のいろいろが待っていた。
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文=北風祐子、写真=小田駿一、サムネイルデザイン=高田尚弥

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