「私たちは日本と同じジレンマに直面している」豪州で割れる対中世論

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マイケル・フリラブ氏(ローウィ研究所ホームページから)

ただ、問題はそう簡単ではない。中国は豪州にとっての主要貿易国だ。外務省ホームページによれば、豪州の貿易総額は約8000億豪州ドル(約58兆8000万円)だが、うち24.4%を中国が占めている。第2位の日本9.7%、第3位の米国8.8%を大きく引き離している。豪州は中国に鉄鉱石を輸出しているほか、中国からの観光客や留学生の受け入れなどで大きな収益を上げている。

そして、豪州の経済を支えてきた要因の一つが移民政策にある。豪州は1970年代に、白人を優遇し、中国系など有色人種の移民を制限する白豪主義を撤廃し、積極的な移民の受け入れに転じた。今や、オーストラリア人の4人に1人は外国生まれとされる。逆に移民の増大で都市のインフラが追いつかないという事態が起きているほどだ。その移民を中国が供給しているという現実がある。

日本の政治家の豪州に対する関心も、安全保障政策よりも移民政策に向かうことが多い。日本政府関係者は「日本が抱える少子高齢化社会の問題を打開するため、豪州の移民政策を参考にしようとする政治家は多い」と語る。

フリラブ氏も「豪州の移民政策は成功した。移民政策がなければ、不況に陥っていただろう。移民政策は起業家精神、勤勉をもたらし、人口統計を改善する。日本が適切な移民政策を導入することを期待したい。高齢化が進み、人口が減少しているからだ」と語る。

こうした中国と豪州の複雑な関係を前提に、フリラブ氏は「中国は主要な貿易相手国であると同時に、私たちの同盟国である米国のライバルだ。中国は私たちの政治に介入すらしようとしている。オーストラリア人は中国をますます不快に感じるようになるだろうが、中国との関係が私たちの繁栄に不可欠だということも理解している」と指摘する。そして、こう語った。「私たちは、日本とまったく同じジレンマに直面しているのだ」

今後、豪州は移民政策と安全保障政策のバランスをどうやって保つのか。

フリラブ氏によれば、「秩序ある移民プロセス」が解決のひとつのカギだという。同氏によれば、豪州は詳細な移民受け入れの手続きがあるため、不法移民がそれほど多くないという。「移民が何人で、どこから来たのかも説明できる。英国も豪州の移民政策を基礎とした政策を導入することを考えている」と語る。

そして、フリラブ氏は、中国系移民に温かい視線を注ぐことの重要性を説いた。「外国政府が私たちに過度に干渉できないよう、注意を払うべきだが、同時に、私たちは社会的な結束を維持する必要がある」と語る。同氏によれば、豪州の中国語系メディアの多くに「親北京」の傾向が強まっているのは事実だという。

そして、こうも語った「中国系オーストラリア人の多くは政治と無関係だ。彼らは人生を生き、成功し、家族の世話をするためにここにいるだけだ。大半は、豪州でより良い生活を送りたいと思っているのだ」

文=牧野愛博

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