2019年11月にこの店がオープンするまで、シェフのミナ・ストーンが振る舞う料理は、一部のアート業界関係者しか味わうことができなかった。
そんな背景もあり、ミナズには、新しいもの好きな食通だけではなく、アートファンも多く集まる。今、NYでもっとも旬なレストランの人気の秘密を探った。
ミナは、「必要なことがあれば何でも言ってね」と一度私のことを歓迎すると、そのまま、食事をしに来ていた彼女の友人のテーブルの席につき、談笑を始めた。
高級店や、常連客しか受け付けないレストランのシェフにはない、カジュアルでフレンドリーな彼女の人柄も、この店が人気を呼ぶ理由のひとつなのだろう。
ミナズには、MoMA PS1のチケットなしに入店することができる。
「生活のための仕事」で才能が開花
ミナのキャリアは、食の世界では異彩を放つ。大学でファッションを専攻していた彼女は、卒業後、生活のための仕事としてプライベートシェフとしてのキャリアをスタートさせた。ここで、予期せぬ形で彼女の才能が開花した。
もともと、クライアントをアート関係者に限定していたわけではないが、ミナにケータリングを依頼した最初のギャラリーで、彼女が作るシンプルで温かみのある家庭の味と、テーブルセッティングも含めた、料理の洗練されたビジュアルが受けた。
「GREEK MEZZETHAKI」(4品選20ドル)は、ホイップしたフェタチーズやオイルサーディンなど、パンに合わせていただくギリシャの前菜料理。
ミナの評判は、NYで活動をするアーティストやこの街に現在1500ほどあるアートギャラリー関係者の間でみるみる広まっていった。
昨年、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションで話題を呼んだスイス出身のアーティスト、ウルス・フィッシャーのスタジオ専属シェフや、世界中にギャラリーを構えるアートディーラー、ギャビン・ブラウンのプライベートパーティでのケータリングなどの経験を元に、05年には初の料理本『Cooking for Artists』も出版。現在は、また新たな書籍の出版に向けての準備も進めているという。
『Cooking for Artists』Mina Stone著
こうしてミナは、アート関係者だけではなく、アートファンにとっても、一度はその料理を味わってみたいと思わせるシェフとしての地位を確立していった。